15
「……安定してきたみたいだねぇ」
「そうですね〜マスト先生」
「ん?おっ!起きたようだねぇ、身体は痛むかね?」
俺は気がつくとベットで白衣のオッサンと看護師さんを見つめていた……
「おーい」
白衣のオッサンは俺の目の前で手を振った。
俺が瞬きするとオッサンはポケットに手を入れて話し始めた。
「大丈夫そうだねぇ」
「イテテ……」
状態を起こして壁に背を付ける……腹部がひどく痛んだ。
「ああ……寝たままでも良いよ……君の担当しているポーショラーのマストと言うものだ……オーク狩りかい?……君ぃ、無茶しちゃいかんよ……」
そうか……オークリーダーの魔力を抽出して……どうしたんだっけ?
「君はとても運が良いな……オークの牙は臓器まで達していたが対処が早かったのが良かったんだろうねぇ」
「……そうか、誰かが助けてくれたのか……」
マスト先生は困った様な表情を見せた。
「おいおい君ぃ……隣に恩人がいるってのに、それを無視して誰かってのはちょっと頂けないねぇ……」
マスト先生の視線の先……右には椅子に座った女性がすぐ側に座っていた……Fランクの冒険者だ……白い肌……ブラウンの瞳に栗色の髪……そして、とても整った顔立ちをしている女性だ……こんなに整っていると威圧を感じてしまい言葉に詰まる。
「あっ……」
「3日前に偶然見つけた君を抱えて、この病院まで走って来てくれた……そうだね?」
美人はコクッと頷いた。
「それから君が起きるまでの三日間、殆ど側について身の回りの世話をしていたんだよぉ?こんな美人が……まったくなんて贅沢なんだね、君は……まぁ良い、とにかく起きれるなら退院だよ、特にこの時間は患者が次から次へと……」
「先生!8名の急患です!商人の一団が盗賊に襲われたようです!」
「今行く……あとはこの看護師に頼むから、さっさと退院しなさい」
急かされ、俺は受付に行き明細書を見て度肝を抜いた。
ーーー明細書ーーー
小回復ポーション大瓶6……6000s
鎮静ポーション大瓶3……3650s
手術料……1000s
術後診察及び介護料……250s
宿泊費……300s
合計……1G1200s
ーーーーーーーーー
俺はその場で固まり冷や汗が出た……オーク達の換金をしていない……換金まで待ってもらおう……
「すいま……」
俺を見かねた美人は受付にジャラッと皮袋を置いた。
「1G1200s……確かに頂きました……次の方!」
俺は彼女に慌てて返済の約束をする。
「待ってて下さい!必ずこの……あれ?」
俺は鞄の中を弄ったが……魔菅が見当たらない……いや!それよりもユーゴが居ない!ユーゴ!
嘘だ!
何度鞄を探ってみてもユーゴが居ない!
俺は心臓の強い動機を感じてその場に膝をついた……
ああ!ユーゴ!俺が気絶して……どうなったんだ!……ああ!やっぱり居ない!
半ば混乱した俺の背中に女性が手を付いた。
思わず口から声が漏れた。
「あぁ〜……ユーゴォォォォ!……居ないんだ!」
『Master?』
「あ!何処だい?ユーゴ!」
ユーゴの声は遠くにいても聞こえる……でも俺の声は近くないとユーゴに聞こえない。
ユーゴは今も森で俺を探しているのかもしれない!
『Master 私は居ますが……』
「へ?」
目の前の女性が俺の肩を掴んで瞳をじっと見つめてくる……俺は恥ずかしくて視線を逸らした。
「え?、ユーゴ?……」
確かに客観的に見ればそうだ……こんな女性が俺を助けるなんて事は無い……でもゴリラの様に上半身が発達したゴーレム姿のユーゴが……こんな女性の姿になれるなんて思わないじゃ無いか。
更にFランクになっているなんて、俺は何日ぐらい失っていたのだろう……
『混乱させた様ですね……しかしながら急を要する事態だった為、独断で動きました……オーク達の肉を喰らい…人の姿になって居ます……』
「そうか……」
俺は気を取り直して今後の事を考えた。
まずは必要な事は【防具の調達と武器の調達】が最重要……
冷静になって俺はユーゴを見た……布を羽織っているが、裸足だ……まさか…な……
「ユーゴ……お前……」
ていうか退院したばかりの俺も薄いローブの下は裸だ……
「よし!まず服を買いに行くか……」
『Yes. My Master』
俺は革製の服とズボンを購入し、ユーゴにも同じものを買い与えたが、それで残りは500s程になってしまい、新しい槍を新調どころの話ではなくなった。
俺達は冒険ギルドへ向かった。
冒険ギルドで一番高報酬だった【Fランク ジャイアントスコーピオン】の依頼を受けているとギルド長に話しかけられた。
「おお!君!来たね!」
肩を叩かれてもユーゴは黙っていた。
「ん?……ジャイロ君……かね?……」
「?……はい……」
「生きてたのかね……」
「はい、今日退院しました……」
「ああなんだ……てっきり……」
ギルド長は口を押さえている。
「てっきり?」
「いや、そこの彼女に魔管を強奪されて……その……殺されたかと……」
「ゴウッ!」
ユーゴの拳をギルド長が剣で受け止めた。
『私がMasterにそんな事する』
「これは失言だったな……許してくれ……しかしジャイロ君!君も人が悪いのだよ……魔導士と知り合いなら早く言ってくれれば良かったものを……」
『Masterに向かって……人が悪いだと?』
ユーゴは熱り立ってギルド長を睨みつけている。
ユーゴが魔導士?……魔導士か……まぁそう思ってくれているなら……
「そうですね〜、すみません……じゃあこれで…行くよ!ユーゴ!」
「ああ……」
「ギルド長…なんだかずっと睨まれてましたね」
「そうだな……特に魅力を感じないが……ジャイロ……一体何者なんだ?」
ギルド長は鞘に剣を収めようとしたが、うまく入らない。
ギルド長は剣をジッと見つめた。
「……刀身が歪んでいる……やはり彼女は素晴らしい!」
俺はユーゴを連れて商店街を歩く。
ジャイアントスコーピオンは毒針1000s,魔力3000s,毒を小瓶1Gの高収入モンスターだ……これで現状の金欠を出したいな…
「ユーゴ、ごめんちょっと寄り道……」
スクロール屋の前を通った時、中を覗いてみた。
「いらっしゃい……ホッホ!君か……」
「また来ました……おっ!」
俺は店内を見て回った……新人お勧めコーナーでいくつか読めるものを発見した。
《ダブルピアース》2G
《鴉突き》300s
《チャージ》1G
読めたのはこれだけだ……チャージ以外は槍用のスキルと書かれている……まぁ買えるのは鴉突きだけだが……安物の槍を買って行くか……
「なんでこれだけ安いんですか?」
「鴉突きか……威力はまぁまぁなんじゃが……隙が大きゅうてのぅ」
取り敢えず……使ってみるか……
「そうですか……これ下さい……」
「ほいよ……すぐに使うかえ?」
「はい!お願いします!」
ブツブツとお爺さんが話だし、俺の頭に声が聞こえる……野太い声だ……
【拙者は武者修行をしていた……もうこの辺りに敵は居ないと自負し、次の町へ向けて道を歩いていた時のことである……
二羽のカラスが道端に落ちている死肉を漁っていたので拙者はこれを払い、土に埋めて供養した。
……気配だ……不意打ちには慣れている拙者が後ろを振り向くと鴉は左へ避ける。
拙者に隙などない……
油断した拙者は脳天に糞を落とされ、鴉は満足して遠くに飛んでいく……
頭の糞を拭きながら思ったのだ……脳天が隙なのだと……
拙者はその後、修行に明け暮れて脚力を強化して飛翔し、相手の脳天を襲う鴉突きを習得した。】
「さぁ…終わりじゃ」
「え?……これだけ?」
「ああ、あとは試すだけじゃて……」
まぁギルド長紹介の店だ……騙されてるって事もないだろう……
俺達は携行食と水筒……そして安価な槍を買い、ジャイアントスコーピオンを狩るべく……街から西に位置するカラカラ砂漠に向けて出発した。
ユーゴのストック
岩………15立方
粘土……8立方
鉄…1立方
木材……1立方
肉……1立方
所持金32s8000b
ジャイロのスキル
鴉突き