その彼女、心配性につき
こないだの続きです。
恋を熱病と言った人がいる。あるいは忍耐と言った人がいる。
恋をしてみてどちらの考えにも成程な、と思った。
「今日もこないなぁ」
意中の人に思いを伝えて早一週間、まさかのオッケーに舞い上がったのは記憶に新しいが、その後進展らしきものはない。
寝る前にメールの一つでもこないかと思って待ってみても連絡はない。
私が好きになった人は乙女心を解しているような人ではないと知っていたけれど、一人だけ空回りしているみたいで悲しい。
「デートとか、どうなんだろう?」
彼は学校で特に恋人ができた事を誰かに言う事もなく普段通り過ごしている。そのせいか私も周りに大っぴらには言えていない。言っていたとしても仲のいい友達くらいだ。
せっかく付き合う事が出来たのだからデートくらいしたいが、学校でもああなのだから誘っても断られるかもしれない。
もしかすると私のことは遊びだったりするかも...。
「ないな」
ちょっとは考えたけれどそれはないと思う。
好きな人に対する言葉じゃないのかもしれないけれど、そんな甲斐性は彼にはない。
他の女の影という不安を抱く余地すらないのは恋人としていいのかもしれないが、忍耐強くないと不満は溜まりそうだ。
結局は今日もこの悩みは解決することなく眠りにつくのである、まる。
「デートとか、どうだろうか?」
「はい?」
どうだろうか、どうだろうかじゃないよ!?
放課後図書委員の仕事である受付をしていたら、まさかの悩みの種が悩みの解消を持ち掛けてきた。
人もまばらになってきたしそろそろ図書館を閉めようかと言っていた矢先にこれである。人目もあまりないし、彼も部活上がりだと思うからタイミングとしては悪くないのだが言うなら昨日言ってほしかった。
ま、嬉しいんだけどね。
「女子は記念日とか気にするんだと昨日聞いたんだ。だから、その、プレゼントは用意できなかったけど約束くらいはどうかと思って」
「う、うん」
私は記念日とかあまり気にしないけれど、そういうのを気にする人は確かにいる。
一週間というのは記念日としては早すぎるのかもしれないけれど、それを抜きにしても気にかけてもらえたことは素直に嬉しい。
「それじゃあ、また夜にメールするから」
「あ、わかった」
「メール送るの、少し遅いかもしれないけど」
それじゃあ、と言って彼はさっさと帰っていく。
それに応える事もできず彼を見送ることしかできなかった。
夏の足音が近づく夕暮れ、人のいない図書館でぼーっとたたずむ影一つ。
川島 千夏、高校二年生。
図書委員を務める文学少女。広く浅く本を読むが、最近は友人に勧められてサブカルチャーにも手を出し始めた模様。隠しているが声フェチである。
その彼女、心配性につき
思ったよりも彼女を心配性にできなかった...。
次回、『その後輩、ロマンチストにつき』
またみてね。