#22「あるサムライ」
我はソラを駆けるサムライだ。
主君は今はいない。
いわゆるローニンというやつだ。
普段は用心棒やツジギリ(バウンティハント)などを生業としている。
今日も愛機を駆り、海賊を成敗しに来たところだ。
我が愛機は多少角張ったサーフボード状の板の形をしている。
これでもちゃんとソラを飛べ、その上に立てば周りを覆ったバリアのお陰で呼吸も可能だ。
対する海賊は戦闘用の小型宇宙艇を備え、攻撃してきた。
我は愛機を操り、ターンを決めて直上から襲いかかった。
我が刀は右手から一瞬放たれるビーム状のものだ。
その一瞬だけ愛機のバリアを解除しての居合の様な斬撃。
ザッ!!
狙い通り海賊のフネのエンジンのみを破壊した。
我は無用な殺生は好かん。
生きる為にはやぶさかではないが、なるべくなら避けたいものだ。
動けなくなった海賊船の回収は請け負い先が行うことになっていた。
長居は無用。
我は愛機を翻し、その場に別れを告げた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
我はソラを愛機で進んでいた。
板状のそれは特殊なバリアで包まれていて、単機での大気圏突入すら可能だ。
普段はトシ型宇宙船を根城にしているのでそんな機会はあまり無いのだが。
『……』
我は愛機の上で腕組みをしたまま立っていた。
心の奥底に、忸怩たる思いはある。
いつまでもこの様なことを続けていて良いものか。
主君がいて、そのヒトの為に我が力の全てを振るえたなら。
そして至高の一撃を放てたなら。
だが、今はどうしようもなかった。
我は一人、ソラを進んでいた。
「!」
我は殺気を感じた。
素早く愛機を翻し、辺りを探る。
そこにいたのは、我と同じ様なボード状のフネに乗った騎士風の男だった。
凄まじい殺気を放ちながら、こちらを向いている。
カブトの下の顔はよく見えない。
どこの誰かは知らぬが、向こうが望むのなら是非もなし。
我も構えた。
「!」
奴は突進してきた。
我も前に出る。
すれ違う刹那、奴は微妙に軌道を変えた。
「!!」
我の刃は空を切った。
向こうの刃も我を掠めている。
……出来る。
だが!
我は追った。
奇妙な動きだが目で追えぬ程ではない。
辛抱強く、奴が殺傷圏内に入るまではーーーー!
位置取りの攻防が続く。
奴の斬撃も何度か躱した。
だがお互いのバリアが邪魔して、決定的なダメージを与えるには至らない。
奴と同時、肉を切らせて骨を断つタイミングならばーーーー!
その一瞬を!
ザシュッ!!
我が愛機にスパークが走った。
だが、我が刀は確実に奴の体を捉えた。
乾坤一擲!
だが次の瞬間、奴の体から赤黒いモヤモヤとした煙が吹き出してきた。
「ぬっ!」
何だ?
その煙は我を覆った。
愛機のバリアは何故か効かなかった。
我はそのモヤモヤとした赤黒い煙状の何かへと取り込まれていった。
我は何度か右手の刃を振るったが、まるで手応えが無かった。
呼吸が出来ない。
苦しい。
そして邪悪な気配の何かが、我の中へジワジワと入ってくるのが分かった。
侵入ーーそして侵食!
全身に激痛が走った。
ーーー死ぬのか?
こんな道半ばで。
だがーーーこれが定めならば。
我は覚悟を決め、目を閉じて力を抜いた。
一瞬、何かのフラッシュが、見えた様な気がした。
キィーーーーン!
「!!」
何かが光った。
我の右手の中から、緑色の光が吹き出していた。
何だ?!!
その光に、何故か我を取り巻くモヤモヤは怯んでいる様だった。
我は右手の周りに出来た空間に顔を入れ、一気に空気を吸い込んだ。
一息あれば。
例えば一矢でも!
我は全身の力を込めて右手を一閃した。
キンッッ。
手応えあり!
先程まではまるで空を切る様だった赤黒いモヤモヤが、ブワッと晴れていった。
「………」
我は静けさの中にいた。
愛機は息も絶え絶えといった様相で、バリアが持つのも後僅かだろう。
バリアが切れれば、我は生身のままソラに放り出されることになる。
いずれにしろ、我が命は風前の灯という訳だ。
我はゆっくりと膝をついた。
だが、今は我が命よりも、気になることがあった。
……先程のドス黒いモヤモヤは、何だったのだ?
一瞬にして消えた様だがーーー
「………」
我は右手を見つめた。
あの時の緑色の光は、何だったのだろう。
そして普段のビームの刃とは違った、あの感触は。
あれこそは、我が目指してきた至高の一振りそのものではなかったか?
ーーーならば、良い。
我は腰を下ろし、目を閉じた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
ゴゴ………
微かな揺れを感じた。
「!!」
我は目を開けた。
……何だ?
立ち上がって見ると、我が愛機の板状の面が、ボウッと緑色に発光していた。
「おお……?」
そしてその板状の光は少しずつ強くなり、周りへと広がっていった。
それはやがてドージョーなどよりも大きくなってーーー我はその光の面の上に立っていた。
「………!」
その時、我は思い出した。
先程あのモヤモヤに囚われていた時。
死を覚悟したあの時。
あの時緑色の光の中で見えた、あのフラッシュ。
あれはーーーーーー
無数のヒト達の姿だった。
このソラに生きた、ツワモノたち。
とりわけ目に焼き付いていたのはーーー我の愛機の様な、ボード上のモノに乗っている、幾多のヒト達の姿だった。
サーフィン、スケートボード、スノーボード、カイトボード、サンドボードーーー我と同じ様に、板を操って何かを目指すヒト達の姿が、我を通りすぎていった。
彼らの板からは、緑色の光の粉がキラキラと舞っていた。
これは、何だ?
この緑色の光が、我に見せているのか?
「…………」
我はふと思った。
突拍子も無いことだがーーー主君なのか?
これは、ヒトならざるものなのかもしれない。
だが、導き、助けてくれて、更に高みへとーーーー。
フワリと、体が上昇するのを感じた。
見ると、光の面から我が愛機が浮かび上がっていた。
フラッシュで見た彼らの板の様に、推進機からは緑色の光の粉が舞っている。
すっかりダメージも直り、フルパワーで動ける様だ。
「……!」
我は愛機を操り、上昇してこの光の面が何なのか、見ようとした。
ターンして見下ろすとーーー光の面は数十キロサイズで、卵を平たく潰した様な形をしていた。
これが、我を助けてくれたモノか?
呼びかけようとして、我は手を止めた。
言葉が通じる相手ではないーーーーー
もっと上の存在。
何故か、そう思った。
やがて、その光の塊は、一陣の揺らぎと共に消えた。
ジャンプしたのだ、と思ったが我には別の何かにも思えた。
ーーーーまた、いつか。
我は虚空に向かって深々と一礼した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「………」
我はまた愛機を駆り、ソラを進む。
我はサムライ。
主君はいない。
だがーーー目指すモノは、ある。
あの緑色の光とまた、出会う為に。
これからも日々精進してゆくことになるだろう。
あの光は、我の中にもある。
そして恐らくこのソラには、同じ様にそれを目指すヒト達が、無数にいるに違いない。
それだけは、確信出来ている。
( 終 わ り )




