#20「ある巨大ヒーロー」
俺はとある巨大ヒーローだ。
ソラの平和を守る為、長い間数々のテキと戦ってきた。
大抵はソラで決着をつけるんだが、たまにテキがホシに降りたりして仕方無くそのホシのヒトたちと交流することもある。何しろこっちのガタイがデカイんで、色々破壊しちまってトラブルになることも多い。ま、感謝される時ってのは気分いいけどな。
今俺は、とある任務を終えて辺境を旅してる。
故郷に戻るのはまだ先だ。
ま、ソラの何処かで何かが起きればこの身に分かる様になってるから心配はいらない。
しばらくは、ゆっくり休息を取るさ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「?!」
俺は気付いた。
嫌な予感がする。
何かが、迫ってきてる。
俺は素早く辺りを探った。
「!!」
俺は見た。
近づいてきているのは、ドス黒いモヤモヤとした霧の様な物体だった。
中では赤いチカチカとした火花が散っている。
俺はこの数万年の間に何度かこういうヤツに出会ったことがある。
実体はあって無い様なモンで物理攻撃は大して効かないし、取り込まれたら結構厄介だ。
迫るそれを俺は避けつつ素早くこの宙域を見渡した。
幸い近くに文明や生命のあるホシは無い様だ。
俺はテレポートしてその宙域から離脱した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
かなりエネルギーを使うので普段はあまりやらない。
でも今回は、それだけヤバいテキだったってことだ。
相手の力量を見極める、それも戦士としては重要な資質の一つさ。
さてとーーー俺は慎重に辺りをうかがった。
「……!」
驚いたことに、俺は先程いた辺境宙域から大して離れてはいなかった。
何故だ?!
そしてあのドス黒いモヤモヤとした霧状の何かは、着実にこちらに向かってきていた。
そしてーーーー俺は感じた。
近くにあるとても小さなホシに、ヒトがいる!
先程は何も感じなかった筈なのに??
まさか俺は、さっきのテレポート時に、別次元にでも来たってのか?
だとしたら追って来てるこいつは??
と思ってる間にモヤモヤはもう目の前に迫ってきてた。
とにかく、ここでやり合うのはマズイ!
俺は再びテレポートをかけた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
通常空間に出た俺は、驚いた。
ソラじゃなかった。
空気があった。
地上だ。
そして、ありえないサイズの樹木があった。
普段ならそのホシでは巨木と言える木々も、軽く腰の下辺りにあるハズだ。
だが今、その樹木はーーーいや、形状は雑草系のそれが、俺の頭上を覆っている。
俺はーーー小さくなったのか?
と、地面が揺れた。
「!?」
俺は素早く飛びのいた。
俺の前に、地響きを立てながらーーー巨大なテキが現れた。
いやーーーー本当に俺が小さくなったのだとしたら、これはーーーネコ、だ。
これは、あるホシではアメショ、と呼ばれているやつだ。
サイズを除けばかなりかわいい部類、ではあるがーー
こいつに光線を撃ち込むわけにもいかない。
とりあえず敵意は無い様だ。
ネコは今顔を近づけてこちらをジッと眺めている。
「………」
俺は構えを解いて、その顔を見つめた。
ネコの目は、俺すら入りそうな巨大なガラス玉の様だった。
一瞬俺は、その中に何かを見た様な気がした。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「!!」
次の瞬間、俺はドス黒いモヤモヤの中にいた。
何が起こった?
俺はテレポートなどしていない、筈だ!
ドス黒いモヤモヤは、次第に俺の中に入ってきつつある。
俺は闇雲に光線を放った。
だが効かない。
ヤバい。
取り込まれる!
もがいたがどうしようもなかった。
テレポートを繰り返したせいか、エネルギーが枯れつつある。
ーーー俺が、死ぬ!?
俺は薄れゆく意識の中でドス黒いモヤモヤの先に目をやった。
その先に見えたのはーーーー
「!?」
それは俺の体をも遥かに超えた誰かの巨大な目、だった。
緑色の目だ。
何処までも深い、深淵。
これはーー何だ?
既に俺は死後の世界を見ているのか?
ーーーーいや!
ようやく俺は気づいた。
俺やこのモヤモヤがいるのはーーー信じがたいことだが、先程の巨大なネコの、眼球の中だ。
今見えている巨大な目は、ネコの顔を覗き込んでいる誰かのものだ。
先程俺が感じた小さなホシにいる誰かか?
俺はさっきよりも更に小さくなってーーー!
一体、何が起こっているんだ?
✳︎ ✳︎ ✳︎
次の瞬間、俺は次の空間へと飛び出していた。
空気がある。
重力もある。
だが地面が無い。
何処までも、青いソラが続いている奇妙な場所だ。
何だ?この不条理な空間は。
「………?」
気がつけば、いつの間にかあのドス黒いモヤモヤは消えていた。
何処へ行った?
俺はどうやって脱出したのか?
そして今俺はーーーもはや、自分の大きさが分からなかった。
いやーーー大きさどころか、俺はもう巨大ヒーローの体を成していなかった。
「……!」
俺は、何かの塊になっていた。
表面がゴツゴツとした岩の様な物体。
形は細長く、円柱の様だ。
キンッッッ。
俺の体の中の何処かで、音がした。
「…………。」
その音で、何故か俺は理解した。
俺はあのモヤモヤから脱出したんじゃない。
取り込まれまいと、逆に取り込もうとして融合したのだ。
そして、この姿になった。
今も、俺の中ではあのドス黒い何かが蠢いている。
だが、一緒になってみるとその存在はーーー
かつて何処かの場所では、『ファントム』と呼ばれていたものだということが分かった。
別に邪悪な存在、って訳でもない。
ただ、取り込もうとするもの。
それだけだった。
取り込まれた先は、どうなるのか分からない。
対する俺はーーーーー、もともと光の存在だった。
いや、正義と悪とかっていう単純な話じゃなくて、だ。
こうなってみると分かったんだが、俺はずっと小さな光が集まった存在だった。
光ってのはーーーーヒトが生きる時に側に必ずある小さなカケラ、みたいなものだ。
「………」
だから俺は、ーーー信じがたいことだが、存在している様で実はいなかったんだ。
今までテキと戦っていたというのはーーー一体何だったんだ?
全部ウソだったのか?
故郷なんて、無かったのか?
仲間なんて、いなかったのか?
それはもしかして別の誰かの、記憶だったとでもいうのか?
ーーーー記憶?
それが、小さなカケラの、正体か?
とにかく、今俺はこうして無限のソラに浮いてる。
光でも闇でもない、どちらでもない存在として。
いつまでこうしているのかは分からない。
この場所が何なのかも。
だが、もう焦りとか動揺は無くなってる。
悟りでも開いたのか、俺は?
何故俺がこうなったのか、いつか、その理由を知りたいと思う。
恐らく、時間はたっぷりある。
筈だ。
キンッッッ。
またあの音がした。
何だ?
その時、俺は誰かの気配を感じた。
それは、この無限のソラの無限に遠くーーー
そこにずっと浮かんでいるトシ型宇宙船の上にいる、
様々なヒトたち。
そして、俺の存在に気づいているのはーーー
その中の一人の女性の側にいる、正二十面体の形をしたロボットだ。
そいつは、俺と微かに意識が繋がっている。
何故か、今の俺にはそれが分かった。
いつか、話をして見たいものだ。
それからは、それが俺の目的になったのさ。
何しろ自分では動けないんで何もアクションは起こせないが。
今も俺はそれを待ってる。
とても楽しみだよ!
( 終わり )




