#10「あるホシ」
その日の朝、20代の青年プランジはとある辺境にある小さなホシの草原を走っていた。
雨が続いた後の久しぶりの晴れで、空気が澄んでとても気分が良かったのだ。
頰に当たる風も心地良い。
プランジは全身にミナギる力を感じながら疾走していた。
30代の元兵士の男ウィズはホシに建つ無限に高い塔・通称イエの側で、前に見つけた古い車を修理していた。
廃車同然でホシに現れたモノでまだまだ部品も足りていないしガスもほとんど残っていないが、暇を見つけてはそれをいじるのが彼の趣味とも言うべきものだった。
このホシにやってきてから既に数カ月が経つ。
救助が来る見込みはあまり無い中、彼はこのホシでの生活に慣れつつある自分に気がついていた。
30代の女性リジーは、ネコを連れてイエの周りを散歩していた。
ランチが済んだら、洗濯をしよう。それまでは雨上がりのこの感じを、じっくりと味わっておこう。そんなことを考えながら歩いていた。このホシは時に環境を変えて危険な状態にもなるが、この草原が現れる時はゆったりと過ごせることが多かった。
プランジとずっとホシで暮らしてきたというネコは、何となく彼女の後ろを歩いてきていた。
「……?」
ホシに来る前は地質学者であった彼女は環境が変わる度に土を採取して試験管に入れたものをコレクションしている。今日は試験官は持っていなかったのだが、その時しゃがみこんで土に触れようとしだ彼女は草原の中に何かを引きずった様な跡を見つけた。
ネコが耳をピクリとさせた。
「何だろう……?」
リジーは微かな予感と共に、そのトラックマークを辿っていった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「じゃあ、コインが落ちたらな」
ホシでは特に必要ない硬貨を見せてウィズは言った。これもホシに現れたものだ。
「了解」
肩や手足首をグルグルとさせながらプランジが言った。
このホシでネコと暮らしてきたというプランジは常人以上の体力を持っている。何時間でも全力で走れたし、一晩でこの小さなホシを一周してきたこともある。だが短距離ならば、戦闘用に特化されたほぼ人造の身体の自分もそこそこ通用するのではないか?プランジが何気なく「一緒に走る?」と言ってきた時に珍しくウィズはそう思ったのだった。
スタートとゴールに手製のフラッグを立てて、両者は構えた。
「行くぞ」
「いつでも」
ウィズが親指でピンとコインを弾く。上手く積み上げた石の上に落ちて、キンと言う音が響いた。
「フンッ!」
同時に両者は飛び出した。
ネコの様に素早いダッシュを見せたプランジ。
だがウィズも負けずに追った。
「く…」
相変わらずバケモノのような体力だ。ーーーだが!
一進一退の両者がゴールに迫りつつあった時ーーーそこにフラフラとリジーが横から入ってきた。地面に目を落としていてこちらには気づいていない。
「!!おい!」
「避けて!」
「え?わっ」
プランジが咄嗟にギリギリでリジーを躱わし、直後よろめいたリジーをウィズが走りながら抱えた。
側にいたネコは驚いてシッポを膨らませていた。
「……ふいー」
「あ、ありがと」
ゆっくりとスピードを落として止まり、ウィズは抱えていたリジーを降ろした。
「まぁ、今回は引き分けってことで」
プランジが近づいてきた。
「ふん……」
あのまま走っていたら、どうなっていただろうか。ウィズは少し口角を結んだ。
ネコもようやく落ち着いたのかトコトコと歩いてきた。
「でも危ないよ」
「何、いい歳してかけっこ?」
呆れた顔で笑いかけるリジー。
「よそ見してると危ないぞ」
「ハイハイ。何か、また現れたみたいでさ」
「ん?」
リジーは足元を指差した。
「なんかの跡、向こうから続いててさ」
「ほぅ…」
「あ、あれだ」
プランジが反対側の少し離れたところに小さな箱状の物体を見つけた。
一同が近づいてみると、それはところどころ焼け焦げているブリーフケースだった。
「へぇ……」
このホシには、時々モノが現れる。
必要なモノ、不必要なモノ。時に現れては消えていくそれらを利用しつつ、彼らは生きていた。
時にヒトが現れることもある。
それらが、今のところ唯一ホシの外と繋がる存在だ。
「…どう思う?」
ウィズの人造の左目は高度なセンサーにもなっていた。
「中は書類みたいだが…問題は」
「何?」
「引きずったあと以外に足跡が無い。誰がこれを引きずったんだ?」
「確かに…」
「誰が、っていうか何が、かな…」
ウィズとリジーは続いていた跡の方を眺めた。
「開けるよ、これ」
「おい、まだ早ーー」
ガチャ。
プランジはそれをあっさり開けてしまった。
「ニャ…」
側ではネコが目をパチクリとさせていた。
「仕掛けでもあったらどうする」
「大丈夫だったよ」
取り出した茶色のA4サイズの封筒を眺めるプランジ。それも所々焼け焦げていた。
「それだけか……特にガワに情報は無いな」
ウィズはまだブリーフケースを調べていた。
ホシに現れるモノに、他のホシの具体的な情報や持ち主の名前などが入っていることは少ない。
まるで誰かがホシの外の情報を遮断してでもいるかの様に。
✳︎ ✳︎ ✳︎
イエの中の巨大なリビングスペースに戻った二人は、書類を確かめていた。
焼け焦げてほとんど読めはしなかったが、その中に
”Plunge・E632
Lizzy・S407
Wiz・F785”
の表記が見えた。
「これって……?」
「俺たちの番号、なのか?」
「ドユコト?」
3人は顔を見合わせた。
ウィズとリジーはかつてとある宇宙輸送船にいて、このホシに不時着した。
だがその前の自分の元の名前や認識番号などは何故か思い出せなかった。
自分が何処で生まれ、何処のホシから来たのかも。
「これが俺たちのだとしても……プランジは?」
「いやいや、あたしたちの名前だってホシに来てからプランジがつけたんだからそれより前に誰か知ってる筈無い」
「プランジっていうのも自分で考えたんだけど…」
ホシで独りでいる時に名前など必要なかった。プランジという名前もウィズたちがこのホシに現れた際に、それならばとその時気になっていた単語を名乗っただけなのだった。
ひとしきり彼らは黙った。
ホシでは不思議なことはよく起きる。
前に、プランジも覚えていない幼少期のことを書いたと思われる絵本が見つかったこともあった。
ある時気がついたら少年の姿でこのホシにいたプランジには、果たしてそれが真実だったのかは分からない。
それを一体誰が書いたのか、ということも。
「………」
3人はひとしきり考えたが、どうしようもなかった。
それ以外に読み取れる情報は特になかった。
その日は前日に現れていた缶詰とペリエで食事は済ませた。
ネコはそんな彼らの様子を丸くなってジッと見つめていた。
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次の日、プランジはイエの外壁のベランダスペースで彫刻をしていた。
チタンの彫刻刀でイエの謎の外壁素材を削り出して、ゴツゴツとした彫像を作り出していく。
そこには既に十数体のモニュメントが立っている。ずっとネコと二人きりで過ごしていた時間で作り上げたものだ。それに没頭している時間は、彼にとって無になれるとても貴重なものだった。決して思い通りにはならない、この不思議なホシでの僅かなストレスの積み重なりを揉みほぐすのには。
だが今日は、イマイチ気分が乗らなかった。昨日の番号のことが頭から離れなかったのだ。
ネコはずっと側にいて、丸くなっていた。
ウィズも車をいじりながら、頭の片隅に書類のことがあった。
散々書類は自らの左目で解析した。書類自体が作成されたのは100年以上前で、それがまた事態をややこしくしていた。もっとも、そんなことはこのホシではよくあることではある。だがーーー。
このホシで、脱出することも叶わず時を過ごしている自分。
だが元の自分の記憶は既に朧げだ。
元兵士で、自分の体が戦闘用に改造されたものであることは知っている。
果たしてそんな自分がホシの外に出て、何が出来るのだろうか。
また戦いに戻るのだろうか。
そしてこの不思議なホシでの生活に慣れつつある自分はーーー。
ウィズはいつの間にか輸送船から唯一持ち出せた古いライフルを手にしていた。
昔の自分と繋がるものは、もはやこれだけだった。
そういえばこれに刻まれた銃機メーカーの名前だけは何故か残っていて、それがWIZという名前の由来だった。
リジーはイエの中にあるコインランドリーのマシンが無限に置いてある部屋で洗濯をしていた。
久々の洗濯で、量は溜まっている。本当は昨日やるつもりだったが、あんなモノが現れた後は何も手がつかなかったのだ。
幸いランドリーマシンは無限にある。幾つか同時に回しながら、その前で彼女は一人考えていた。
あれは、何の番号だったのだろう。
自分の、何処かのホシでの認識番号か何かだろうか。
普通の社会ナンバー、とかなら良いのだが。
もし、罪人のものだったら?
囚人だったら?
何故か今日は、そういった不穏な考えばかりが浮かんだ。
そんな時、彼女は肌身離さず持っているこの時代としてはかなりレトロなリボルバーを取り出して握ってみる。母親の形見だった。
時に不安定になる自分を、ずっと支えて来たモノだった。それで自らの命を断とうとしたこともあったが、今はお守りの様になっていた。
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その日の夕方、プランジがさらに絵本を見つけてきた。
彫刻をしていてふと気になって登って行った外壁の上の方に、それが現れていたのだった。
「リジー!ウィズ!」
ディナーの準備でイエの二階のリビングスペースにいた二人は顔を上げた。
「何?」
「どうした」
「また絵本見つけた」
「え?」
「マジか」
テーブル代わりのコンテナの周りに3人は集まった。ネコも近づいてきた。
「やはり100年前の素材だな…」
ざっと外見をスキャンしてウィズは呟いた。
「中身は?」
「待って待って」
プランジはそうっと表紙を開けた。
ーーーそれは、宇宙を股に掛ける3人の殺し屋の話だった。
それぞれが宇宙で絶対的な力を持ち、殺戮を繰り返す。
だがある時、彼らは任務の途中で同時にそれぞれの標的を忘れてしまう。
更に自分が殺し屋だったことも忘れ、ホシたちの間を彷徨う。
そのままそれぞれとあるホシで、ヒトに紛れて暮らす。
だが彼らは孤独だった。
やがてそのことも忘れて、そのうちの二人は偶然とある宇宙輸送船に乗る。
そして辺境のとあるホシに不時着すると、
そこには残りのもう一人がいた。
だが彼らは、元の自分のことを何も覚えていない。
3人はそこで暮らし始めた。
そういう話だった。
「……?」
「マジで?」
3人は顔を見合わせた。
「これって、あたしたち?」
「…ホントは俺たちは調査員なんかじゃなくて、お前も俺たちも前は暗殺者だったってことか?」
「まさかぁ」
「……ねぇ」
一同はとても信じられない、という態度だったが内心は複雑だった。
ネコはそんな3人を見比べつつやがて離れていった。
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余っていた小麦で焼いたパンと雨水をろ過したミネラルウォーターのディナーを終えた。
静かに夕方は夜へと移りつつあった。
3人は微妙な気分のまま、特に会話も無くそれぞれ過ごしていた。
「ニャッ」
外でネコの声がした。
「?…よっと」
親指での腕立て伏せをしていたプランジがヒョイと立って向かった。
ウィズとリジーは何となくストールから腰を動かせずにいた。
「へぇ……」
ベランダスペースに出たプランジは、地平線に僅かに残ったオレンジ色を眺めた。
それより上は、見事な星空が現れ始めていた。
「………」
いつの間にか、プランジはチタンの彫刻刀を手にしていた。
これも、昔このホシに現れたモノだ。
モノが現れては消えて行くこのホシで、これだけは今まで無くならずに側にあった。
これのおかげで、自分は彫刻に出会えた。
それが、この不思議なホシで暮らしていくのにどんなに精神的に助かったことか。
ネコが近づいてきてプランジの足に頭を擦り付けた。
プランジは微笑んで、しゃがみこんだ。
ネコは勝手知った様にその肩に飛び乗った。
プランジは立ち上がって、ネコと一緒に頭上を取り囲む星空に浸った。
ずっと二人で、こうして星空を見上げていたっけ。
今は仲間も増えて毎日楽しいけれど、前の冷たく、でもキラキラしていた時を忘れてはいない。
プランジはネコもそう感じていると思った。
「いつもながら綺麗だな」
「ね、今日は一段と空気が澄んでる」
プランジが振り返ると、リジーとウィズがベランダスペースに出てきていた。
リジーはリボルバーを、ウィズはいつも手放さないライフルを手にしていた。
ザッと一陣の風が吹いた。
「あ…」
リジーが少しよろけて、ウィズがその手を取って支えた。
「………!」
プランジは、何かを感じた様な気がして目を見張った。
肩でネコが小さくニャッと鳴いた。
「ーーーーー!」
プランジは手の中の彫刻刀を見た。
今、一瞬それが光った様なーーーーそして、自分に何かを語りかけた様な気がしたからだ。
「えっと……」
プランジは後ろの二人を振り返った。
ウィズはライフルを、リジーはリボルバーを見つめていた。
「やっぱりーーー」
プランジは思わず呟いていた。
「今ーーー?」
「あぁーーー」
リジーも、ウィズも同様に何かを感じていた。
何が起きたのかは分からない。
だが、確かに何かが起きた。
このホシではそういうことはよくある。
訳の分からないこと、常識や物理法則では説明のつかないこと。
だがそういう中で、少しだけ頼りになるものは、少しだけある。
濁流の様に押し流されていく事態の中で、少しだけ、舵が効く様な。
それが、今のこのホシで彼らを取り巻いている状況だった。
溢れんばかりの星空の下で、彼らはその不思議さの中の微かな希望に、少しだけ触れた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
ネコは考えていた。
ネコだけには、時々ホシで起こっている何かが見えていることがある。
数日前、長く降り続いた雨が上がりかけた明け方に、ネコは窓辺でうたた寝をしていてふと目を覚ました。
プランジたちはそれぞれの部屋で皆眠りこけていてリビングスペースにはネコだけだった。
その時、ネコは何かを感じて飛び上がった。
いや、飛び上がったのでは無い。
自分の体が、宙に浮き上がっていた。
ネコは全身の毛を逆立てて手足をジタバタさせたが浮いている状況に変化は無かった。
まるで自分の周りだけが無重力の様で、周りのコンテナやストールは浮き上がっていない。
そして次の瞬間ーーー周りの景色が、突然逆転した。
ネコは叫び声をあげた。
時に斜めに、そしてまた反対側の斜めにーーー浮いているネコの周りで、景色がグラグラと揺れ動いていた。
ネコは驚いてはいたが、やがてその不思議な光景に見入った。
このホシでは、不思議なことはよく起きる。
起きるとイエを取り巻く環境が雪山や海の底だったこともある。
砂漠やジャングルだったこともある。
空気が無くなったりしたこともある。
何度も死にかけたこともある。
何故自分たちがそれでも生き延びていられるのか、いくら考えてもよく分からないのだった。
そのうちに、ネコは窓の外に何かの気配を感じた。
このホシで何か不思議なことが起こる時には、大抵謎の緑色の光が現れる。
それと共にネコにしか見えない不思議な光の赤ん坊ーーその顔はプランジの幼い頃を思わせる幼子なのだがーーが側で浮いていたりする。
いつかその正体を理解したいものだがーーーそれがいつになるかは分からない。
だが今、それらは見えなかった。
代わりと言っては何だが、外の草原に、流星の様な何かが近づいて来ているのが見えた。
ネコは目を凝らした。
このホシには、時折流星が降る。
何度かイエやプランジが作ったモニュメントを破壊したこともあるし、向かっていったプランジを巻き込んで瀕死の重傷を負わせたこともある。
それによって、ホシはまた、環境や気候が変わったりもするのだ。
だが今回のそれはそういう大惨事を引き起こすものよりもいささか小さく、近づくにつれて輝く光や光跡は消えかけていた。
やがてイエの近くの地表に落ちてその黒っぽい固まりは何度か跳ねた。
ネコの目には、それは何かの箱に見えた。
その間にも地面は揺れ動き、その箱を転がしていった。
その様子をネコは浮いたまま眺めていた。
上下が入れ替わったり斜めになったりする地面の上で、箱は跳ねたり転がったりを繰り返していた。
まるでホシに現れた異物にびっくりしてホシが収縮してでもいるかの様だった。
ネコはそれをまん丸な目でじっと見つめていた。
やがてその現象は収束し、転がっていた箱も止まった。
しばらくはブスブスと燻っていたが、それもそのうち収まった。
いつの間にか雨は止んでいた。
気がつくと足は窓枠についていた。
ネコは、プランジたちの様子を見に行った。
彼らはそれぞれ巨大な空間に小さなベッドだけのいつもの部屋で何事も無かったかの様に眠っていた。
自分と同じ様に浮いて周りの変化に気づかなかったのだろう、とネコは思った。
転がっていたコンテナやストールは、いつの間にか元の位置に戻っていた。
次の日、リジーが転がった跡に気づいてその箱ーー例のブリーフケースを見つけるまで、ネコは少し離れて観察していた。
プランジたちが箱を開けその中の書類の中身を知った時、ネコは思った。
またホシが、何らかの変化を見せようとしている。
そしてそれはホシ自体の意思というよりは、その周りから何らかの影響を受けてのものなのではないだろうか。
外から現れた異物。
あの箱も、本来ここに来るべきものでは無かったのでは無いだろうか。
それに対するリアクションとして、昨夜の現象が起きたのでは無いか?
3人が書類の中身のことで少し考えている中、ネコは次の何かが起こる気配を探していた。
果たして次の絵本がホシに現れ、その内容によってプランジたちは更に考え込むことになった。
何処か別の世界の、3人の姿を記した絵本。
恐らくそういう世界は無数にあるのだ。
そしてホシは、それらの間にある。
何となく、ネコはそんなことを感じた。
そして今日の夕暮れ。
ネコは何かを感じてベランダスペースに出た。
プランジが作ったモニュメントだらけの場所で、ネコは現れつつある星空を見上げてニャンと鳴いた。
そのあまりに綺麗な星空の中で、微かに何かが光った様な気がしたからだ。
近づいてきたプランジの肩に乗ったネコは、吹いてきた一陣の風の中にキラキラと光る緑色の小さな光が散りばめられているのを目撃した。
それらはやがて3人の手の中にある、それぞれが大事なモノへと集まり消えて行った。
まるでホシが、その緑色の光が、もう大丈夫だよと言っている様に。
彼らはそれを間違いなく感じ取っていた。
ネコは再び空を見上げた。
こうやって、このホシの生活は続いていくのだろう。
それが終わる時は、どうなるのだろうか。
出来るなら、最後まで彼らの行く末を見ていたいものだ。
ネコは心からそう思った。
ネコのビー玉の様な真ん丸の瞳には、満天の星空が写り込んでいた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
次の朝、プランジは草原でまた箱の様なものを見つけた。
草原を走っていると、草の中からネコの声がしたのだった。
近づいていくと、ネコの側にあるそれは緑色の30リットル程度のポリタンクだった。
「へぇー」
持ち上げてみると意外と重たく、中には液体が入っていた。
開けると独特の鉱物系の燃料の匂いがした。
「これはまさか…?」
あまり嗅いだことの無い匂いだが、それだということは何となく分かった。
何に使うのかは、今までホシに現れた映像ディスクや図鑑で見たことがあった。
しっかりと蓋を閉めてそれを持ち上げると、プランジはイエのガレージスペースへと走り出した。
「ウィズー!」
ガレージスペースでは立ち話をしていたウィズとリジーが顔を上げた。
「ガソリン見つけたー!」
視力10はあるプランジの目には、ウィズが目を丸くしてそれから笑顔になるのが見えた。
隣のリジーも、やれやれと言った顔で手を振っている。
それは、いつものホシの一日だった。
ネコは、また日常が始まったなと思いながら頭をプルプルとさせると、タッとイエに向けて駆け出した。
( 終わり )




