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黄色いカチェーシャを頭に嵌めているイヤナは、広大な春キャベツ畑の中で雑草を毟っていた。
今日はウェンダが畑に現れる事は無い。
友人二人と一緒に隣町に行っているからだ。
友人の中の一人、貴族のタムラムが自動車を持って来たので、それを取りに行かなければならないんだそうだ。
自動車がどう言う物かは知らなかったが、あのセレバーナが頬を紅潮させてまで見てみたいと言い出すくらいの最新式の機械らしい。
王族でも私的では所有しておらず、次女のペルルドールは実物を見た事が無い。
そんな物をなぜ持っているのかと言うと、タムラムが所属している大学のグループがエンジンの研究をしているからだ。
耐久テスト用の実験機で、不具合が起こる可能性が非常に高い機体らしい。
だから、乗ってみたいと願うセレバーナとペルルドールの要求はやんわりと却下された。
特にペルルドールを乗せて事故に合せたら、怪我をしなかったとしても本気で死刑になる。
昨夜、サーカスの夜の部を見終わった後に、外食屋でそんな会話をした。
楽しい二日間だった。
みんなも喜んでいた。
男の子と遊ぶってのは楽しい事なんだな。
また遊びたいな。
彼等は、いつ大学に戻るんだろう。
隣町から帰って来たら聞いてみよう。
そんな事を考えながらせっせと草毟りをしたイヤナは、母屋で昼食をご馳走になった。
もう昼までに遺跡に帰る必要は無いし。
「イヤナちゃん。サーカスも帰ったし、明日から夏野菜を植えようと思うんだ。良いかな?」
農家のおばさん、つまりはウェンダの母親が食事の席でそう言った。
「あ、はい。みんなに伝えます」
「それはそうと――最近、ウェンダと仲良くしてる様だけど」
ギクリとするイヤナ。
「え、えっと、はい。良くして貰ってます」
イヤナは、おばさんの顔色を伺いながら恐る恐る頷く。
怒られる……?
息子に付いたおじゃま虫としてポイされる……?
不安からか、頭に乗っているカチューシャを無意識に触ってしまうイヤナ。
「そっかそっか。あの子は見る目が有るよ、うん。まぁ、仕事の邪魔になる様だったら怒っても良いから。じゃ」
ニコニコ、と言うよりニヤニヤしながら午後の仕事に行くおばさん。
これは、親公認って事か!
なんてね。
色恋沙汰がどうなるかは女神様でも分からない、ってね。
イヤナはスキップする勢いで午後の仕事を始める。
何時間も中腰で草むしりをしているのに、全然疲れない。
『イヤナ。聞こえるか?新しい方の畑に蒔く消石灰について訊きたいのだが』
セレバーナからのテレパシーが飛んで来た。
すぐ横に居るかの様にクリアに聞こえる。
『そうね、結構多めって感じで良いかも。ひとつめの畑はちょっと少なかったからね』
『分かった』
『あ、明日からこっちで夏野菜を植えるから、みんなにもそう伝えて』
『いよいよ明日か。伝えよう。しかし、こんなに離れているのにハッキリと聞こえるな。ビックリしたぞ。調子が良いんだな、イヤナ』
『エヘヘ。まぁね』
凄く調子が良いイヤナは、雑草を毟りに毟った。
根っこまで徹底的に引っこ抜いた。




