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意気揚々と遺跡を出た少女達は、眩しい朝日に照らされている丘を降りる。
「お?あの派手なテントがサーカスかな」
サコが指差す方を見ると、赤と黄色の縞々柄が派手な巨大テントが遠くに見えた。
村の入り口から百メートル程先に行った辺りに有る。
「あれだな。ここからでも見えるとは、かなりの規模だな」
ピンクのワンピースを着ているセレバーナが笑顔で言う。
珍しく声色も上機嫌だ。
「ウェンダさん達と待ち合わせをしてるから、まずは外食屋に行こう」
先頭を行くイヤナの案内に従って村に入る少女達。
村の中は、大人も子供もソワソワしていた。
辺境の村にサーカスが来たのは十年ぶりらしく、村人全員のテンションが上がっている。
「って言うか、十年来てなかったから来たんだって。ウェンダさんがそう言ってた」
状況を説明しながら歩いているイヤナの横にペルルドールが並ぶ。
「色々とお話してますのね」
「うん。畑仕事をしてる所に向こうから来てくれるから」
「まぁまぁ。お相手も積極的なんですのね」
「あ、えっと、うん」
イヤナが頬を染める。
完全に恋する少女の顔になっているイヤナを見て、ペルルドールも幸せな気分になる。
微笑ましい雰囲気に包まれている少女達が外食屋に到着した。
店の中はガラガラで、ひとつのテーブルだけが埋まっていた。
「あ」
イヤナは、埋まっているテーブルに向かけて小さく手を振る。
座っている三人の中の一人が手を振り返す。
『彼がウェンダか』
『うん』
テレパシーで確認し合う四人の少女。
初対面だが、イヤナから感じる雰囲気は彼の物だから一目で分かった。
三人の男達が立ち上がり、店の入り口で立ち止まっている少女達の前に来る。
「始めまして。ウェンダ・カルタクです」
良く言えば優しそうな良い男。
悪く言えば特徴の無い平凡な男。
そんな彼が先頭に立ったので、ツインテール少女が上機嫌な声で挨拶を返した。
「始めまして。私はセレバーナ・ブルーライト。貴方の家には大変お世話になっています」
後ろの男二人がヒソヒソ話をしている。
それがとても気になったので、いつもの無表情になったセレバーナの金色の瞳がそちらに向く。
「何か?」
「い、いえ。失礼しました。噂は聞いていたんですが、まさか本物の王女様だとは思っていなくて……」
金髪を整髪料で整えているイケメンが深く頭を下げる。
それを受け、男の子の格好をしているエルヴィナーサ国第二王女が一歩前に出る。
「始めまして、ペルルドールです。注目されると面倒なので、大袈裟な礼はしないでくださいね。人目を避ける為に、今のわたくしは普通の男の子ですから」
イヤナの恋人候補の友人相手なので、失礼の無い様にフランクに挨拶をするペルルドール。
「分かりました。私はタムラム・コンファネンス。宜しくお願いします」
『なぁ、ペルルドール。コンファネンスと言えば結構な御家柄じゃないか?』
『そうですわね。わたくしも名前を知っています。何か気になる事でも有るんですか?セレバーナ』
『分からん。分からんが、何かが引っ掛かる』
テレパシーで会話する二人の横で自己紹介が続く。
「サコ・ヘンソンです。宜しく」
「イヤナです」
「僕は、デチアン・ニジハク。こんな所で立ち話をするとお店の迷惑になる。時間も迫っているし、行きましょうか」
メガネで茶髪の男が言う。
頷いたウェンダが外食屋の美人奥さんに向けて手を振る。
「そうだね。――イトカさん。サーカスの後でまた来るから、ツケといてください」
「分かったわ。楽しんで来てね」
一行は列をなして店を出る。
「開場は十時。開演は十一時だから、歩いて行けば十分間に合うね」
ウェンダは太陽の位置を確認しながら言う。
「そうそう、入場料はおいくらなんでしょうか。サーカスに行くのは初めてなので、相場が分かりません」
「大丈夫ですよ、セレバーナさん。チケットは買ってあります」
ウェンダがポケットから取り出したチケットの束を振った。
それを見たセレバーナが代金を払うと言い出す前にメガネの男性が口を開く。
「しかし、こんな所でセレバーナさんにお会い出来るとは。ご高名はかねがね」
「私も、デチアンさんにお会い出来て嬉しいです。貴方のお陰で私達の暮らしは快適になっています」
「どう言う事ですの?彼をご存じなの?セレバーナ」
ペルルドールが話に割り込んで来る。
「井戸のポンプが有るだろう?あれの溶接に彼の論文の一部を利用させて貰っている。お陰で水漏れも無い」
「まさかセレバーナさんに僕の論文を読んで頂いていたとは。光栄です」
笑むメガネの男性。
「ペルルドール様も、意外と言っては失礼ですが、明るいお方なんですね。王宮等で遠くから拝見させて頂く時は、いつも厳しい表情でしたから」
整髪料臭い金髪男が言う。
「コンファネンス家が王宮にいらっしゃる時は軍事訓練が主ですしね。ですが、どうして貴方と彼は友人関係ですの?」
ペルルドールは、「ご身分が違いますのに」と言ってタムラムとウェンダを交互に見る。
「私達がそれを言ったらお終いだよ、ペルルドール」
サコが肩を竦める。
「うむ。気が合ったり、『何らかの目的』が有ったりすれば身分は意味を成さない。我々の様にな」
セレバーナは、金色の瞳で男達を観察しながら言う。
男達の表情に不審な変化は見られない。
微かな胸騒ぎがしているのは気のせいなのだろうか。
神学校では男女別で生活するのが当たり前だったから、単純に異性への警戒心が出ているだけか?
無表情のまま考え込んでいるセレバーナの周りでは、複数の家族連れが村の入り口に向かって歩いている。
集団でボンヤリと立ち止まっていると通行の邪魔になるので、一行は大勢が歩く流れに乗って進み始めた。
当たり障りの無い雑談をしながら。
だが、イヤナとウェンダ以外は初対面の異性相手なので、その会話には微妙な緊張感が含まれていた。




