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開けた木窓から差し込む朝焼けの光を頼りに赤髪を三つ編みにしたイヤナは、部屋を出ようとして思い留まる。
一筆認めなければならない事が有るんだった。
布団が畳まれた石のベッドに座り、ノートを開く。
寝る前に考えていた事の大半を忘れてしまっていたが、書きたかった事は書けた、と思う。
ちょっと遅くなったので急いで朝と昼に食べるパンを焼き、洗濯をする。
ペルルドールのワンピースは手触りが良いからか、丁寧に陰干ししないと痛んでしまう。
だからイヤナが洗ってあげてた訳だが、そろそろ自分で服を洗わせる頃合いか。
もしも何着かダメにしたとしても、替えの服がまだまだ沢山有るから大丈夫だろう。
ダメになった服はバラして別の何かに再利用すれば良いし。
朝の仕事が終わる頃、みんなが起きて来てリビングに集合する。
シャーフーチは呼んでも二階から降りて来ない事が多くなったので、本人に断った上で朝食に呼ばない事にした。
何かの用事が有るとかではなく、ただ単純に朝起きるのが遅いだけだから。
サコは早起きだが、筋肉を目覚めさせるトレーニングとやらをしているので、結局はこの時間に現れる。
「いただきます」
みんなで円卓を囲み、一緒に朝食を食べる。
その席で、そろそろ夏野菜の苗を植える時期だから準備していて欲しい旨を伝える。
肉体労働が苦手なセレバーナとペルルドールは相変わらず表情で嫌がったが、拒否はしなかった。
「お師匠様が起きて来たら、苗植えのバイトに参加する許可を貰ってね。じゃ、行って来ます」
赤毛の少女は今日も元気に丘を降りる。
まず母屋に行ってウェンダと話をしようと思ったが、彼の姿はどこにも無かったので、取り合えず畑仕事から始める。
葉野菜の虫取りを丁寧にしていると、やっぱり寝坊していたのだろう、昼が近付いた頃にウェンダが現れた。
彼の姿を見た途端、イヤナの心臓がドキンと跳ねる。
私ってば何でドキドキしてるんだろう、と一人であたふたしているイヤナの横に来るウェンダ。
「こんにちは。今日も頑張ってるね」
「こ、こんにちは。あのですね、サーカスの事なんですけど」
「あ、聞いてくれた?どうだって?」
「みんな行きたいって言ってくれました。でも、お師匠様がひとつ課題を出して、それをクリアしないと行けないんですけど」
「課題って?」
「それは魔法の事なので言えません。でも、頑張ってクリアします!」
拳を握ったイヤナは、気合の入った鼻息を吹く。
元気の良い赤毛少女に笑みを返したウェンダは、背中に隠していた紙袋から黄色いカチューシャを取り出した。
「うん。頑張って。そんな君にプレゼント」
「え?」
「昨日の夜、やっと友達が到着したんだ。ホラ、この前言ってた大学仲間。そいつらに頼んで買って来て貰ったんだ」
イヤナにカチューシャを渡そうとしたウェンダは、彼女の両手が塞がっている事に気付く。
青虫が入った小箱なので手を離す事が出来ない。
「しょうがない。頭をちょっと前に出して」
「えっと、こうですか?」
軽いお辞儀みたいな格好になったイヤナの頭にカチューシャを乗せるウェンダ。
「うん。赤い髪に黄色のカチューシャは似合ってるね。可愛いよ」
「あ、ありがとうございます。とても、嬉しいです。鏡を見れないのが残念です」
顔が髪より赤くなっている事が自分でも分かる。
「じゃ。俺は帰るね。友達が居るから」
「あ、はい。ありがとうございました」
「サーカス、みんなで行けるのを楽しみにしてるよ。あ、俺の友達は二人だから、全部で七人になるね」
ウェンダは手を振りながら母屋に帰って行った。
それに伴い、激しく鼓動していたイヤナの心臓も落ち着いて行く。
顔の火照りも収まると、今度は自己嫌悪が襲って来た。
もっと色々な話をしたかったのに、プレゼントを貰った嬉しさで頭が真っ白になってしまった。
お礼しか言えなかった自分の頭の悪さが憎い。
でも、物を貰えたのは嬉しいな。
イヤナは一人でニヤニヤしながら虫取りを再開する。
嬉し過ぎて、つい予定の時間を過ぎてまで作業をしてしまった。
急いで青虫を村の外の草むらに逃がしたイヤナは、走って丘を登る。
途中、頭のカチューシャを撫でてニヤつきながら。




