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昼までの時間が余ったので、この農家の軒先で飼っている雑種の犬と戯れてみた。
声を掛けた事が無かったので近寄ったら吠えられたが、頭を撫でたら尻尾を振って腹を見せて来た。
男の子だった。
「おー、よしよし。人懐っこいね。あはは、お前、犬臭いよ」
「そりゃ犬だし」
ようやっと長男が現れた。
今日もスゥエット姿だ。
「こんにちは、ウェンダさん。思いっ切り寝起き顔。もしかすると、お寝坊さんですか?」
「ははは。大学では夜型だったからね。油断すると、つい」
腹を見せていた犬が急に立ち上がり、ウェンダの脛に身体を摺り寄せた。
放置される形になったイヤナは、犬を撫でていた手を自分の膝に置いた。
飼われている生き物は、やっぱりこの家の人を優先するんだな。
ちょっと寂しい。
「そう言えば、もう大学の春休みは終わってるってセレバーナが言ってましたけど」
「え?うん、まぁ。そうだけど」
犬の頭を撫でていたウェンダは、言い難そうに事情を打ち明ける。
「実は留年しちゃったんだよ。単位をひとつだけ取るのを忘れてて。お陰で内定が全て取り消しさ」
「留年?内定?」
「あ、分からないか。セレバーナさんも、その説明が面倒だから詳しく言わなかったのかな」
「それは有るかも。彼女の言う事、半分くらい意味が分かりませんし」
「まぁ、だから別に変じゃないって訳さ。近い内に大学に戻るしね。あ、それで思い出した。俺達と遊びに行こうって話、どうなった?」
「ごめんなさい。みんな断るそうです。えっと、合コン?でしたっけ。お酒を飲む集まりは遠慮したいって」
「あれ。俺、合コンなんて言ったっけ?」
「セレバーナが、大学生が男女になって遊びに行くのは合コンだって。一夜限りの恋人が何とかとも言ってたかな」
「そっか……神学校って所も、意外に俗っぽいんだなぁ……。それで断るって?」
「はい」
「大丈夫だよ、そう言う事じゃないから。いくらなんでも未成年にお酒を飲ませる様な真似はしないよ」
「じゃ、何をするんですか?」
「そう言われると困るなぁ。強いて言うなら、みんなでお茶するくらい?」
「お茶、ですか」
赤毛少女の表情はあからさまに理解を示していなかったので、ウェンダは大袈裟に肩を竦めて見せた。
「じゃ、試しに俺とお茶してみる?これから」
「え?お茶?これから、ですか?」
「お昼までに帰れば良いんでしょ?それまで」
「はぁ……良いですけど……」
別に断る理由も無いので、イヤナは特に考えも無く頷いた。
「良し。行こう」




