12
切りの良いところまで働いたイヤナは、今日も昼前に遺跡に帰る。
「みんな。ちょっとお話が有るんだけど、良いかな」
見慣れた面々がリビングで昼食を取っていたので、イヤナは遊びの提案をされた事を話してみた。
「ふむ。ウェンダとはバイト先の農家の長男で、大学の春休みで帰って来ているんだったな。その友人とは誰だ?」
妙に量の多い黒髪をツインテールにしているセレバーナは、無表情のまま腕を組む。
「あ、それは分かんない。遊びに来る日がまだ決まってないっぽいから、村の外の人だと思うけど」
「なら大学の仲間か。そうなると、いわゆる『合コン』と言う奴だろうな。悪いが、私は遠慮しておこう。酒は苦手だ」
「合コン?どうしてお酒?遊ぶだけだよ?」
キョトンとするイヤナを見て溜息を吐いたセレバーナは、腕を解いて冷えたパンを手に取った。
「詳細を知らずに話を持ち帰ったのか。なら、イヤナは何をして遊ぶと思ったんだ?」
「え?うん、まぁ、分からないけど。でも、ストレス発散は良い話かなぁと思ったんだ」
様子を窺っていたペルルドールが話に乗って来る。
「わたくしも合コンと言う物は知りませんけど、ストレス発散は賛成ですわ。サコはどうですか?」
「何をするか分からないのは、ちょっと。そう言う意味で、私はあんまり興味無いかなぁ」
雲行きがどうにも良くないと思ったイヤナは、パンを啄んでいるツインテール少女の横に移動した。
「何をするの?セレバーナ。その、合コン?ってのは」
セレバーナは言い難そうに視線を逸らした。
「私も詳しくは知らない。私は飛び級で上の学年に行っているから、友人が居ない中で義理で誘われただけだしな。酒の席に未成年を誘うのは犯罪だし」
「そっかぁ」
イヤナが残念そうに肩を落とす。
四人とも未成年なので酒は飲めない。
ただし子供用の食前酒は許されているので、飲んだ事が無い訳ではない。
だが、その程度では酒の席に行ってもつまらないだろう。
「それを承知した上で、聞いた話で良ければ話すが」
赤毛の少女が本気で残念がっているので、セレバーナは仕方なく話を続けてみる。
「うん。それで良いよ」
「男女混合で食事会を開き、気が合えばカップルになる。そんな集まりを合コンと呼ぶのだ」
「かっぷる?何ですの?それは」
ペルルドールが小首を傾げる。
「当たり障りの無い言葉で表すなら、恋人、だな。本気の恋人だったり、一夜限りの恋人だったり。本当の意味での『大人の遊び』と言う訳だ」
それを聞いたペルルドールが頬を引き攣らせる。
酒が出ると言うので、王城でも良く開かれる立食パーティーみたいな物を想像していた。
王城での食事会は貴族達の話を聞く仕事みたいな物なので楽しくはないが、遊びだと言うので未知の面白みを期待したのに。
「そ、それは、あんまりお上品な集まりではありませんね。わたくしも遠慮しますわ」
三人に断られたイヤナは、困り果てて泣きそうな顔になる。
「でも……折角誘ってくれたのに……」
「やっと始まった魔法の修行の真っ最中だ。今回は断った方が良いな。そもそも、春休みはとっくの昔に終わっている。もう夏野菜を植える時期だからな」
胡散臭い、とセレバーナが言ったところでシャーフーチがリビングに来た。
「修行を始めますよ。準備をしてください」
「はい」
円卓に着いているセレバーナ、ペルルドール、サコの三人は、慌ててパンの残りを口に詰め込んだ。




