表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第三章
79/333

8

翌朝。

リビングに顔を出したシャーフーチは、朝食の準備をしている四人の弟子達に青い表紙のノートを返した。


「すみません。ノートに名前を書いて貰うのを忘れていました。中身を確認して、自分の物を取ってください」


セレバーナ以外の少女が円卓に置かれたノートに群がり、これは誰の文字かと騒ぎながら自分の物を手に取った。


「後でノートの表紙に自分の名前を書いてくださいね。――さて。自分がみんなの事をどう思っているのか。書いてみて、ハッキリと自覚しましたね」


全員がバラバラに頷く。

納得が行っていない部分が有るのだろう、全員の表情に戸惑いが見える。

だが、『それでも良い』と師匠マニュアルに書いてあった。

納得していないと言う事は、更に深く相手の事を考えるから。


「修行は次のステップに進みます。このノートに自分の事を書いてください」


紙袋の封を開けたシャーフーチは、円卓のそばで立ったままでいる少女達に赤い表紙のノートを配った。


「産まれてから今まで何が有ったか。大袈裟に言えば自分の歴史ですね。まだ十代の貴女達なら、書き切るのにそれほどの手間は必要無いでしょう」


言いながら円卓の上座に座るシャーフーチ。


「そして、魔法使いになって何をしたいか。つまり、将来の夢ですね。思い付く限り、全て書いてください」


「書きたくない過去の出来事も、ですか?」


セレバーナが訝しげな表情になって訊く。

思い出したくない体験が有る顔だ。


「自分の事だと思ったら、必ず書いてください。思い付いたら、必ず文字に残してください」


シャーフーチは『必ず』を強調して言う。


「そして、書いた内容は全て覚えておいてください。自分の事ですから簡単でしょう?」


「分かりました。が、これも提出するんですか?」


セレバーナの質問。

他の少女達も同じ事を訊きたそうな顔でシャーフーチを見る。


「いいえ。誰かに見られる可能性が少しでも有ると書けない事も出て来ます。なので、そのノートは誰にも見せてはいけません」


「では、提出しなくても良い、と?」


「はい。そのノートの存在は、私達以外の人間には秘密です。まぁ、魔法使いの修行をしている者ならみんな知っているでしょうけど」


だから、と続けながら少女達を見渡すシャーフーチ。


「そのノートは、自分でしっかりと隠し、管理してください。良いですね?」


少女達は「はい」と返事をしながら頷く。


「そして、何が有っても他人の赤いノートは見ないと誓ってください。私も誓います」


全員が胸に手を当てて「他人の赤いノートは決して見ません」と誓う。


「提出しないからと言って手を抜いてはいけません。怠けて泣きを見るのは自分ですからね。良いですね?」


「いつまでに書けば良いのですか?」


質問をするのは、もっぱらセレバーナ。


「期限は有りません。書く事が有れば、その時に書き込んでください。それが一年後であっても」


「分かりました。で、この課題の真意は何でしょう?想像も出来ないのですが」


「それは明日のお昼に説明します。そして、これからしばらくの間、昼食の後を魔法の修行の時間にします」


「やっと魔法の修行が始まるんですね?」


ペルルドールが輝く笑顔になる。


「その指輪を嵌めた時から修行は始まっていたんですけどね」


シャーフーチが苦笑いしながら言う。

その言葉を聞いた少女達は、反射的に自分の指に嵌っている金色の指輪を見た。

これが弟子の証なので、修行の始まりはここからだと言っても間違いは無いのか。


「ですから、イヤナ。村の農家の手伝いに行くのは構いませんが、明日からは昼までに帰って来てください。先方にもその様に伝えてください」


「分かりました」


「それと、場合によっては無断で行けなくなる日も有る、とも。あくまでもメインは魔法の修行ですからね。絶対にこちらを優先してください」


「はい」


「では、朝食にしましょうか。あ、赤いノートに自分の過去を書く件ですが、明日の昼までになるべく沢山書いてください。その後はのんびりでも構いません」


頷く少女達。


「じゃ、朝食にしますね」


そう言ってキッチンに行ったイヤナは、焼き立てのパンとコンソメスープを持ってリビングに戻って来た。

ペルルドールのドレスを売ったお陰で生活費に不自由が無くなったので、本当ならバイトをせずとも苗を買える。

だけど、格闘家であるサコが毎日のトレーニングを欠かさない様に、農村出身のイヤナも毎日土弄りをしないと落ち着かないのだ。

早く食事を済ませて村に行き、お師匠様に言われた事を農家のおばさんに伝えないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ