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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第三章
78/333

7

夕飯を食べ終わったシャーフーチは、二階の自室に戻って揺り椅子に座った。

集めた四冊のノートは、読書用のロウソクが灯っているテーブルに重ねて置いた。

一息吐いてから、一番上のノートを手に取った。

表紙を眺めたところでふと気が付き、裏表紙も見てみる。


「しまった。名前を書かせるのを忘れていました。失敗失敗」


取り合えず中を見てみれば誰が書いたか分かるだろう。

青い表紙を開く。

殴り書いた様な文字で、正直上手くない。

力の入れ過ぎで鉛筆の芯が折れた跡も有る。

内容は……。


イヤナの長所:料理が上手い。家事の手際が良い。朝が早い。意外に力が有る。

セレバーナの長所:頭が良い。肝が座っていて先回りが得意なので、対戦相手になったら一番困るタイプ。

ペルルドールの長所:美人で人見知りしない。綺麗好きらしく、細かい部分まで掃除してくれる。

イヤナの短所:自分が正しいと思う部分は譲ろうとしない。料理の味付けは特に頑固で、融通が利かない。

セレバーナの短所:体力が無い。小食。身体が大きかったら最強の格闘家になりそうなのに、残念。

ペルルドールの短所:体力が無い。小食。すぐ休憩する。世間知らず。


「これはサコのノートかな」


どうしてセレバーナだけを格闘家に見立てているんだろうか。

それだけ一目置いている、と言う事か?

次のノートを開く。

まるで絵の様に美しい文字。

額に入れて飾ってもおかしくない文字が書ける様に訓練された感じがある。

内容は……。


セレバーナの長所。

マイチドゥーサ神学校で主席を取り、飛び級で上の学年に進んだだけの事は有り、知識量は流石の一言です。

誰とでも、どんな話でも違和感無く合せられる社交性の高さは見習うべきだと思います。

イヤナの長所。

レシピと材料が有れば、どんな料理でも美味しく作れる腕前はとても感心出来ます。

買い物がとても上手で、値切りの交渉は真似が出来る物ではありません。

明るくて良く笑う、太陽の様な女性です。

サコの長所。

身体が大きく、力も強く、とても頼もしい女性です。

イヤナに負けないくらい明るく、裏表が無い言動には安心出来ます。

セレバーナの短所。

ヒマが有ると物思いに耽り、周りが見えなくなるところは良くないと思います。

また、少しだけ自己中心的な部分が有り、興味が無い事は無難にこなそうとします。

イヤナの短所。

自分が出来る事は他人も出来ると思っているのか、わたくしに掃除洗濯を行えと仰います。

断ると笑顔のままで怒り、とても怖いので困ってしまいます。

サコの短所。

部屋の前を通ると、いつも荒い息遣いが聞こえて来て怖いです。

身体を鍛えていると言う事は理解しているのですが、四六時中一人で汗を掻いているのは異常だと思います。

また、非常食だと言って庭に獣の死体を吊るすのも止めて欲しいです。


「ペルルドールのノートですね」


次のノートの表紙にはセレバーナ・ブルーライトとサインが書かれてあった。

学生だった習性なのか、こう言った物に名前を入れるクセが付いている様だ。

内容は……。


イヤナ。

長所:家事全般の手際が良く、畑仕事等での時間の使い方が上手い。

農家で生まれ育ち、太陽と共に生活していたので、体内時計が発達している物と思われる。

経験からコンパニオンプランツ等の知識に深く、教わる事も多い。

短所:自分に自信が無い。自分をその他大勢の中の一人だと思っている節が有る。

魔法使いの弟子となった今の生活には彼女の能力は必要不可欠な個性なので、自信を持って欲しい。

サコ。

長所:やはり超人的な身体能力抜きでは彼女を語れないだろう。

性格も真っ直ぐで、師匠次第ではその道の世界を騒がせるほどの人物になるであろう事は想像に難くない。

短所:悪い意味で素直。人を疑う事を知らない、は些か書き過ぎか。

他の可能性から目を逸らし、自分の信じたい事のみを信じようとする部分も有る。

大食いなので、一人でエンゲル係数を引き上げている。

ペルルドール。

長所:人見知りを一切せず、先頭に立たせても全く動じない。

礼儀正しく、微笑んで立っているだけでその場を明るくする美貌も素晴らしい。

頭の回転も速く、様々な経験を積めば正確な判断を行える大人になるだろう。

短所:圧倒的に常識を知らない。立ち振る舞いから知識量は多いと思われるが、日常生活では全く役に立っていない。

根本的に怠け者で、自分から行動を起こさない。王族と言う特殊な環境の子なので、そう言う風に育てられたのかも知れない。

もっとも、怠け者の度合いから言えば師匠の方が上なのだが。


「……」


さり気無く師匠批判を入れるのは止めて欲しい。

最後はイヤナか。

その文字はミミズがのたくっている様で、まるで幼児が書いたみたいだ。

物凄く読み難いが、自分で苦手だと言っていたし、一生懸命書いたんだろうから、こちらも一生懸命読む事にしよう。


せればーなのちょうしょはとてもあたまがよいところですいがいにはたらきものです

せればーなのたんしょはたまにひとのはなしをきかないところです

ぺるるどーるのちょうしょはすなおでかわいいくておかねもちなところですとてもたすかりました

ぺるるどーるのたんしょはじぶんでなにかをしようとしないところです

さこのちょうしょはちからもちなところですとてもたよりになるところです

さこのたんしょはがんばりすぎるところですがんばるときめたらわたしのいうことをきいてくれません


「……ふぅ」


読むのに一番時間が掛った。

でも、みんなちゃんと書いているな。

満足気に頷いたシャーフーチは、封が開いていない紙袋をノートの上に重ねた。

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