5
妙に量が多い黒髪をツインテールにしているセレバーナが、地下の水場で洗濯をしているイヤナに近付いて来た。
「イヤナ。今晩が課題の締め切りだが、手伝わなくて良いのか?」
「うん。畑の手伝いに行っている農家の息子さんに手伝って貰ってるから。大学が休みだから帰って来てるんだって」
「ほう。あんなに大きな畑を持っていると、こんな貧しい村からでも大学に通わせられるのか」
「そんな訳だから、私の事は気にしなくても良いよ。セレバーナにも課題が有るから、そっちを優先して。ありがとう」
「そうか。なら良いんだ。話を変えるが、ポンプの使い勝手はどうだ?」
「すっごく楽になったよ」
昨日使った時は、地下の石床に開いた穴だった井戸に手動のポンプを挿し入れ、その胴体を針金で巻いて壁に固定する形だった。
しかし今朝目が覚めたら、木の板で穴に蓋をし、それでポンプを固定する形に変わっていた。
深夜の内に改造したらしい。
壁に伸びていた無数の針金が無くなっているので、ポンプ周りの行動が制限されなくなった。
便利になったのはそこだけではない。
そのポンプの口の下には大きな木の桶が置いてあり、それの脇からホースが伸びている。
水仕事が終わったら、そのホースの栓を抜けば風呂場の排水溝に水が流れて行く。
そうする事によって桶を落ち運びしなくても良くなったため、洗濯や食器洗いが重労働ではなくなった。
「食器洗い用の桶も別に用意しないとな。洗濯と一緒の桶じゃ不衛生だろう?」
「どっちも綺麗にするんだから、私は気にしないけど。そこはセレバーナに任せるよ」
「なら別にしよう。ん?それはペルルドールのワンピースじゃないのか?イヤナが洗っているのか」
セレバーナは、イヤナの肩越しに石鹸の泡に塗れた桶を覗いた。
「あの子、服を洗うって事を知らなかったから。下着は自分で洗わせてるけどね。それに慣れたら服も自分で洗わせるよ」
「ふむ。段階を踏ませている訳か。イヤナは良いお母さんになれるな。――水質を調べるので、一杯の水を貰っても良いだろうか」
「うん、良いよ」
イヤナは、洗剤の泡だらけの手を木桶に入れたまま身体を横にずらした。
右手にコップ、左手に取っ手を持ってポンプの口から水を汲むセレバーナ。
「晴天続きの時と雨の後の差を調べておきたくてな。邪魔をして済まなかった」
右手を上げて詫びたセレバーナは、早足で階段を上って行った。
彼女の足取りが軽いのは珍しい。
何をしているのかは分からないけど、楽しそうなのはなによりだ。




