3
十分後、南の国で編まれた絨毯が敷かれたリビングに全員が揃った。
「さて、始めましょうか。――貴女達が私に弟子入りして、約一ヵ月が経ちました」
年輪が美しい巨大な円卓の上座に座ったシャーフーチは、対面に座っている四人の弟子達を見渡した。
左から、イヤナ、ペルルドール、セレバーナ、サコ。
全員が真剣に耳を傾けている。
「それだけの間、貴女達はひとつ屋根の下で暮らしました。協力して家事をし、庭に畑を作りました。その結果、それなりに仲良くなったと思います」
「なるべく四人一緒で活動しろと仰りましたからね。食事の好みや行動のクセ等をお互いに知っている程度には仲良くなりました」
いつものツインテールになっているセレバーナが無表情で頷く。
「そこで課題を出します」
シャーフーチは立ち上がり、椅子の脇に置いておいた紙袋から四冊の青いノートを取り出した。
「自分以外の仲間の長所と短所をこれに書いてください」
「長所と、短所……?」
円卓を沿う様に歩いたシャーフーチは、呟いたイヤナの前に一冊のノートと二本の鉛筆を置く。
「そうです。仲間を見て感じたままを、感情抜きで書いてください。ちゃんと書いたかどうかを私がチェックしますので、手を抜かない様に」
シャーフーチは自らの手で全員に文具を配った。
少女達はお互いの顔を見てどうした物かと思案している。
「これは、魔法の修行、なんですよね?」
セレバーナが確認する様に訊く。
「勿論です。魔法は精神力も大切ですから、私を疑わないでください。少しでも疑うのなら修行は延期します。危険ですからね」
上座に戻ったシャーフーチは、師匠としての威厳を込めた真剣な表情で少女達を見渡す。
「ちょっとだけネタバレしますと、これは後日教える予定の魔法の土台になります。つまり魔法の勉強で間違いありません」
その言葉を聞いた少女達がノートに視線を落とした。
仲間をどう思っているのかを文字にする事が魔法の修行になるらしい。
「そして、最初はこうして同レベルの仲間内で同じ修行をさせます。関係無い人に向けて未熟な魔法を使う訳には行きませんからね」
「なるほど」
鉛筆を持ったセレバーナが頷く。
新品なので芯が出ていない。
「どうしますか?私を信じますか?」
仲間達と視線で会話した少女は、揃って師に頭を下げた。
良く分からないが、分からないのなら信用するしかないだろう。
「信じます。修行の続行をお願いします」
セレバーナが代表して言う。
「宜しい。これが一番初めの修行となります。つまり魔法が使える様になります。軽率な行動を取ると他人や自分を傷付ける事になると覚悟してください」
頷く少女達。
やっと魔法使いへの第一歩が始まるのか。
「肝心の提出期限はどれくらいが良いでしょうかね。うーん」
シャーフーチが考えていると、イヤナがおずおずと手を上げた。
「あのぅ、お師匠様。私、読み書きが苦手なんですけど……」
「おや。出来ませんか?」
「書く方はサッパリ。読む方は出来なくはないですけど、自信は有りません。勘で何となく読んでいる、って感じで」
「頭の中を形として外に出す事が目的ですから、間違いが有ると仲間に迷惑を掛けます。ですので、どうしても無理なら仲間に協力して貰っても構いません」
「協力するぞ」
セレバーナが「学問的な事なら任せとけ」と胸を張る。
「うん。ありがとう」
「あまり時間を掛けても意味が無いので、提出期限は明後日の夕飯までにしましょうか。夕飯が始まる時にノートを回収します」
別の袋に入れていた消しゴムの存在を思い出したシャーフーチは、それを一個ずつ配りながら言う。
「良いですね?」
「はい」
少女達が揃って頷く。
それを確認したシャーフーチがリビングから退室して行ったので、今日のお勉強はこれで解散となった。




