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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第三章
73/333

2

石造りの遺跡に入ったイヤナは、玄関脇のスペースに肥料を置いた。

すると、廊下の奥の方から石壁をハンマーで叩いている様な音が聞こえて来た。

何事かと見に行くと、地下に続く階段の下でペルルドールが抗議の声を上げていた。


「ちょっと、セレバーナ。トイレの横でトンテンカンテンされると落ち着かないんですけど」


「ん……済まない。もう少しで終わる」


冷静なセレバーナの声。

地下は水場になっていて、階段の正面はトイレになっている。

その横に井戸が有り、更に奥の突き当たりには風呂場が有る。

最初、井戸がトイレの近くに有るのは嫌だなぁと全員が思った。

そこで、分からない事を放置すると気分が悪くなる性分のセレバーナが造りを調べた。

その結果、衛生的には全く問題が無い事が分かった。

井戸の下では、地下水が小川の様に流れている。

トイレはそれの下流の位置に有り、丁度良い感じで段差が有るから逆流もしないんだそうだ。

つまり天然の水洗トイレの様になっていて、流された物は遺跡のすぐ裏の崖から小さな滝の様になって落ちて行っている。

だから地下は臭くない。


「何してるの?」


階段を降りたイヤナが訊くと、水が抜かれた風呂場を覗いている金髪美少女が振り向いた。


「さぁ?」


青いワンピースを着たペルルドールが肩を竦めた。

並んで風呂場を覗くと、背の低い少女が身長より長い木の板を持ってウロウロしていた。

妙に量の多い黒髪をアップに編み上げていて、自主退学した後も普段着にしている神学校の制服の腕を捲っている。


「……これで良し。後は実験だ。危ないから近寄らない様に」


風呂場から出て来たセレバーナが井戸の方に移動する。

そしてそこに被せていた布を取った。


「わぁ、ポンプだ。凄く井戸っぽい」


イヤナは見たままの感想を口にした。

ここに有った井戸は床に穴を開けただけの物だったのに、いつの間にか手押し式のポンプが取り付けてあった。

胴に針金がぎっちりと巻き付けられており、そこから数本の針金が壁に伸びていて固定されている。


「今まではツルベを直接落として地下の川から水を汲んでいただろう?それが意外と重労働でな。――ああ、針金に気を付けて。不用意に触ると切れるぞ」


セレバーナは、風呂場の壁に開けた穴から先程の木の板を引っ張り出した。

木の板は凹の形をしていて、ポンプの口の下にその先端が来る。


「最初は滑車を取り付けようかと思ったんだが、どうせやるなら楽な物を、と思ってな。ここには電気が通ってないので手動だが」


セレバーナは、小さな体を大きく伸ばしてポンプの取っ手を上下させ始めた。

最初は空気しか出さなかったポンプの口だったが、しつこく取っ手を漕ぎ続けると透明な水を吐き出した。

イヤナとペルルドールが「おおー」と歓声を上げる。

水は木の板を伝い、浴槽へと流れ込んで行く。


「うむ。思った通りに行った。これで風呂を沸かすのが楽になる」


結果に満足した黒髪少女が漕ぐのを止めると水も止まった。


「凄い!さすがセレバーナ!これでお風呂に入り易くなるよ」


イヤナが手を叩いて喜ぶと、セレバーナは無表情のまま編み上げていた髪を解いた。


「そんなに褒められると照れるな。微調整は後でする。壁の穴は、水を入れる時以外は布で塞げば良いだろう。井戸の位置から中が丸見えだし」


セレバーナは、喋りながら穴から木の板を引き抜いた。

そして濡れたままのそれを壁に立て掛けた。

浴槽に入った水は、詮をしていなかったので全て抜け落ちている。

ここからの水もトイレとは別の穴を通って崖の向こうへと落ちて行く。


「まぁ、お風呂を覗くのはシャーフーチしか居ませんけどね」


ペルルドールがそう言うと、灰色のローブを着た男が階段を下りて来た。

伸ばしたっ切りの黒髪が鬱陶しい。


「私がどうしましたか?」


「壁に穴を開けたので、貴方が風呂を覗くかも知れないと言う話です」


真顔で言うセレバーナに苦笑いを向けるシャーフーチ。


「そんなドキドキイベントは発生しませんよ」


「そうですわね。シャーフーチは基本的に引き篭もりですからね。殆ど自室から出て来ませんから、警戒しても意味がありませんわ」


ペルルドールがにこやかに言う。

今現在部屋から出て来ているので、思いっ切り皮肉だろう。


「全く貴女達は。師匠を尊敬しないのは問題が有りますよ」


シャーフーチがやんわりと叱ると、ペルルドールは肩を竦める。


「だって、魔法のお勉強が全然進まないんですもの。何も教えてくださらないのに、何をどう尊敬しろと仰るんですの?」


「言われてみればそうですね。そろそろ次のステップに進みましょうか」


待ちに待った言葉を聞いた三人の少女が男に注目する。


「本当ですか?お師匠様」


瞳を輝かせるイヤナに頷いて見せるシャーフーチ。


「はい。頃合でしょう。十分後くらいにリビングに集合してください。サコにもそう伝えてください」


「はい!サコを呼んで来ます!」


イヤナは木靴を鳴らして石の階段を駆け上った。

そのまま庭に居るサコの所に行く。


「後片付けを急ぐか。ペルルドール、悪いが手伝って貰えないだろうか」


「宜しいですわよ」


二人の少女が地下の片付けを始めたので、その邪魔をしない様に灰色のローブを着た男も階段を登って行った。

魔法の勉強の準備をしなければならないし。

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