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赤毛をおさげにしている少女は、科学肥料がたっぷりと詰まっているふたつのビニール袋を両肩に乗せた。
結構な重量が有る筈なのに、それを感じさせない動作で頭を下げる。
「それじゃ、ありがとうございました」
明るい声で礼を言ったイヤナは、木造平屋の建物から出た。
農業が唯一の産業である最果ての村では、役場で科学肥料が売っている。
利用するのは広い畑を持った家だけなので業務用しか扱っていないが、だから安い。
「ちょっと余っちゃうかもだけど、頑張ってもっともっと畑を広げれば何とか使い切れるかな。うふふ」
こんなに良い肥料をお金を出して手に入れたのは初めてなので、ついついニヤけてしまう。
丸々と太ったお野菜が収穫出来るに違いない。
「……ん?」
笑顔で封印の丘に向かっていたイヤナは、軽い上り坂になっている草原に入った所で振り向いた。
視線を感じたのだが、人影は無い。
野良犬や狸といった獣も居ない。
「誰も居ない、よね?」
まぁ、継ぎ接ぎだらけでボロボロのドレスを着ているやせっぽちの女の子に視線を送る物好きなんか居ないか。
目立たないけど、ソバカスが有るのもコンプレックスだし。
肩に乗せた肥料を抱え直したイヤナは、お師匠様から貰った金色の指輪を嵌めている自分達しか入れない封印の丘を登る。
重い荷物のせいで息が上がって来た頃、やっと目的地である石造りの遺跡に辿り着いた。
そして開きっ放しにしてある石造りの門を潜ると、庭で茶髪の少女がクワを振っていた。
イヤナと同じ十五歳だが、異様に体格が良く、並の男より力が有る。
「わぁ。随分頑張ったね、サコ。もう十分だよ。夏野菜、いっぱい植えられる」
イヤナが声を掛けると、背の高いサコはクワを下して背筋を伸ばした。
先日、イヤナ以外の三人で遠くの街へ出稼ぎに行った時、一緒に行ったセレバーナとペルルドールに迷惑を掛けてしまったらしい。
その罰ゲームで、畑の拡張を一人でやらされている。
本人もその事を反省しているらしく、馬車馬の様に働いた。
その結果、あっと言う間に畑の面積が二倍になった。
「もう良いの?もっと頑張られるんだけどな。身体を動かしたくて仕方ないんだよ」
サコは妙に可愛い声で言う。
見た目に全く似合っていないが、これが地声だ。
彼女は格闘家で、遺跡に来てからも毎日の運動を欠かしていなかった。
しかし右足と左腕の骨にヒビが入ったせいで何日か不自由していたから、その反動だろう。
「まだ完治してないんだから、無理しないで」
「そうだね。気になる所を仕上げたら上がるよ」
「うん。近い内に肥料を撒かないといけないんだから、体調は万全にね」
「そうだね。気を付けるよ」
サコは、そう言いながらもクワを振り上げた。
これは一区切り付くまで止めないな。
まぁ、体力があり余っているサコなら大丈夫か。




