23
目を覚ましたセレバーナは、しばらくぼんやりしてから金の瞳を動かした。
木の天井。
紙のドア。
青いカーテンの向こうは明るい。
「朝か。さて、予定通り、帰る準備をするか」
ここがサコの部屋だと言う事を思い出したセレバーナは、窓の外から聞こえて来た小鳥の囀りを合図にして身体を起こした。
妙に量が多い髪をちゃんと乾かさずに布団に入れられたため、とてつもなく派手な寝癖が付いている。
「サコがお父様に呼ばれたそうですから、戻って来るまでお待ちなさい……」
布団の中でまどろんでいるペルルドールが、掛け布団を鼻の位置まで上げながら言う。
放って置いたら二度寝に入るだろう。
「サコが戻って来たらすぐに帰るぞ。支度を整えておこう」
勢い良く立ち上がったセレバーナは、最果ての村の人から借りた農民用のドレスを着た。
敢えて洗濯をして貰わなかったので、少々土臭い。
「どうしてそんなに急ぐんですの?――あら?」
ペルルドールが寝ぼけ顔を布団から顔を出す。
「セレバーナの肩の所に、目が……」
その言葉を聞いた途端、物凄い勢いで自分の肩を見ようとするセレバーナ。
自分の尻尾を追い掛ける犬の様に身体を捻っている。
ペルルドールは、その必死な姿を見てクスクスと笑う。
「セレバーナにも弱点が有るんですのね。大丈夫ですよ。朝にオバケは出ません」
「何を言う。奴等は神出鬼没だ。しかも理解不能。私の手におえん」
「なら、電報を打ったのはオバケでしょうか」
「なるほど、決定だな。解決だ。帰ろう」
畳の上でアグラを掻いたセレバーナは、不愉快そうな顔で靴下を履く。
「冗談ですのに。せめて朝食はご馳走になりましょうよ。準備して頂いているでしょうから」
「むぅ……」
短く唸ったセレバーナは、空腹を訴えているお腹を擦った。
確かに、用意された食事を無下に断る必要は無いな。
失礼だものな。




