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道場に戻ったサコは、玄関脇の受け付けに勇者を案内した。
そこで入門手続きを行う勇者と別れ、稽古場へと向かった。
しかし、見学席に居るはずの仲間の姿が無い。
「お母様。あの二人はどこに?」
サコは、壁際で佇んでいた母親に話し掛けた。
「あちらに」
母親が指差す方を見ると、道着を着たセレバーナとペルルドールが子供達に混ざって型の練習をしていた。
格好は勇ましいが、二人共ブカブカで似合っていない。
何にせよ、楽しそうでなによりだ。
「お疲れさまでした、ペルルドール、セレバーナ。見学の時間は終わりにしよう。もうすぐお昼だから」
「おお、サコか。どこに行ってたんだ?」
「自分を見詰め直しに、ちょっとね。人の気配が一切無い場所だったから大丈夫だったよ」
「なら良いが」
ヘンソン家の住居部分に移動した少女達は、客間で三人一緒の昼食を取った。
山菜尽くしの豪華な食事を取りながら、サコが今後の予定を説明する。
「午後からの修行は道場の外で行うんだ。本気で鍛えている人達のみで走り込んだり、組み手をしたりする」
「ほう。本気の組み手か。折角なので出来るだけ見学したいな。しかし、最後まで見るつもりは無いので、邪魔なら今の内に言ってくれ」
「住み込み入門をする前の下見は制限無く許可しているから、邪魔って事は無いよ」
「そうか。なら遠慮無く。不審者を見付けるのも見学の目的でもあるから、他に予定が無いのならサコも同行してくれ」
「分かった」
セレバーナの希望通り、午後からも見学をする事にした。
身体と技を鍛えている男達の邪魔にならない様、彼等の視界の外で様子を窺う。
女子供も居た午前とは違い、空気を揺さぶる本気の掛け声がペルルドールとセレバーナを竦み上がらせる。
その中に、慣れないながらも頑張る勇者が居た。
「どうしてあの人が居るんでしょう。午前中は居らっしゃらなかったのに」
着替える時間が無かったので道着姿のままで立っているペルルドールが冷ややかな目で小首を傾げる。
無表情のセレバーナも同じ姿。
「ヘッポコ過ぎるんで、一から鍛え直したいんだってさ」
サコが応えると、ペルルドールは興味無さそうにフーンと鼻を鳴らした。
「それよりも、この方達は毎日こんな過酷な稽古をなさっているの?」
「そうだよ。毎日してる。私もしていた。だからシャーフーチの修行はどうにも退屈で。行く前はどんなに厳しい修行かと覚悟していたんだけどね」
苦笑するサコの許に師範代のトハサがやって来た。
合掌して頭を下げる武道家の礼をしてから口を開く。
「これから我々は山頂を目指しますが、皆様はいかがなされますか」
小首を傾げているペルルドールの代わりにサコが応える。
「特に見るべき所も有りませんし、絶対に付いて行けませんから、私達はここに残ります」
「山頂には何が有りますの?」
「特に何も。行って帰って来るだけ。でも、封印の丘を登るだけで息切れを起こしている二人には、かなり辛いと思う」
サコが辛いと言うのなら、本気で辛いのだろう。
セレバーナを見ると、無表情で首を横に振った。
「サ、サコがそう言うのでしたら、辞退させて頂きます。今日一日、とてもお勉強になりました。楽しかったですわ」
ペルルドールが王族スマイルで言うと、トハサは恭しく頭を下げた。
「恐れ入ります。では、私達は修行の続きに戻ります」
もう一度頭を下げた師範代は、使い込まれた道着姿の道場生達と共に門の外に消えて行った。
勿論勇者も一緒に。
ヘッポコだが体力は有るので大丈夫だろう。
「これで今日の見学は終わりだね。じゃ、家に戻ろうか」
サコがそう言ったので、ペルルドールとセレバーナは揃って頷いた。




