17
金髪と黒髪の二人の少女は、サコの母の案内に従って客室に戻った。
「では、何か有りましたらいつでもお呼び付けください」
「ありがとう」
美しい立ち姿のペルルドールが王女らしい微笑みで礼を言うと、サコの母は下がって行った。
二人きりになったところで、ペルルドールはセレバーナを横目で睨む。
「分かっていますわよ。わたくしをダシに滞在延長をしましたわね?」
「いけなかっただろうか」
無表情のまま悪びれていないセレバーナに噴き出すペルルドール。
この子は神学校の先生相手でもこうだったんだろう。
目上だろうが王女だろうが、使える者なら遠慮無く使っている。
使われる者にとっても悪い条件ではないので、怒っても自分が損をするだけ。
卑怯な子。
「ふふ。特別に許可しますわ」
「良かった。元々は街でバイトするつもりだったから、この家でメイドの真似事でも、と思ったんだが」
「それはさすがにご迷惑になりますね」
「うむ。それに、ひとつ疑問も有るしな」
「何ですの?」
セレバーナは、浴衣の裾を気にしながら座布団に座った。
そして茶色い木の長テーブルに肘を突く。
「サコにウソの電報を打った者の存在だ。目的が全く分からない」
「あ……。そう言えば、それが有ったからここに来たんでしたわね。サコをこの家に呼ぶ事が賊の目的なら、滞在は危険ではないですの?」
ペルルドールも上座に座る。
「かも知れない。だが、王女が道場の見学を希望している間は何も起きないだろう」
「なぜそう言い切れますの?」
「考えられるトラブルは、金銭問題。跡目問題。色恋沙汰」
「サコに色恋沙汰?」
ペルルドールが青い瞳を輝かせた。
珍しく前のめりになった王女に驚き、軽く引くセレバーナ。
「薄い本は軽蔑するのに、こう言う話は食い付くんだな」
「アレに描かれているのは愛でも恋でもありません。変態行為です。全く話が違います」
「まぁ、それは脇に置いておこう。――とにかく、それらが目的なら犯罪行為はしない。牢に入れられたら、その全てを失うからな」
「確かにその通りですわね。わたくしが居る時に事が起こったら、余計に大袈裟になる可能性が有ると仰りたい訳ですわね」
「うむ。何にせよ、サコが心配だ。問題が見えるのならば、何とかしてやりたい。だが、見えないまま終わる場合は、我々はそれで手を引こう」
「何もせずに帰るんですの?」
「隠されている他人の家の問題に深入りしたら、更なるトラブルを呼びかねない。サコが我々に助けを求めないのなら、そこに我々の出番は無い」
「簡単に言うと、おせっかいが悪い結果を呼ぶ可能性が有るのでこちらからは動かない、と?」
「そうだ」
「分かりました。私達は寛ぎながら社会勉強をしつつ、サコが出すサインを気にすれば良いと言う訳ですね」
「うむ」
二人が頷き合ったところで風呂上がりのサコが戻って来た。
浴衣ではなく、ピンクのパジャマを着ている。
高身長なのに女物がピッタリ合っているので、この家に置いてあった彼女自身の物だろう。
「お父様に挨拶してくれたんだってね。ありがとう。そろそろ夕飯にするって。……ん?どうしたの?」
青い瞳と金色の瞳に見詰められたサコは、その視線の強さに気圧されながら二人の前に座った。
「サコは、体格の良さと筋肉の量にごまかされていますけど、声は可愛いですし、目鼻立ちも整ってますわよね」
ペルルドールが言うと、セレバーナが続いた。
「顔への打撃を許していないのだ。お父さんは女だからと手を抜くお人ではなさそうだから、才能が有るんだろう」
「な、何?褒められても困るだけなんだけど」
困惑しているサコを見ながらニヤリと笑うセレバーナとペルルドール。
「さて。鬼が出るか蛇が出るか。この二、三日で面白い話が生まれればイヤナへの土産になるのだが」
「?」




