5
「私達の部屋はこっちです」
デッキブラシを持ったままの赤毛の少女は、金髪美少女と共に廊下の奥へ歩を進める。
「ありがとう」
金髪美少女は、扇子で口元を隠しながら礼を言った。
封印されている遺跡だとしても、汚ないにもほどが有る。
汚れた靴を履き替えたい。
ドレスも汚れた気がする。
着替えたい。
「私達同士でも名乗ったらダメなのかな」
金髪美少女の眉間に皺が寄っている事に気付いていない赤毛の少女は気楽に会話をする。
「恐らく。ここはあの御方に従いましょう」
「そうだね。あ、この階段の上にはお師匠様の部屋が有るから上がったらダメだそうです。下はトイレが有るので行っても大丈夫です」
赤毛の少女は、階段を指差した後、早足で数歩進む。
「で、ここからが弟子の部屋。どの部屋を使っても良いそうです。私、ここ」
一番手前のドアを指差した赤毛の少女は、屈託の無い笑顔を美少女に向けた。
金髪美少女は扇子を畳み、青い瞳で廊下の様子を一瞥する。
「どこでも自由に使って宜しいのですね?――分かりました。ありがとう」
「どういたしまして。じゃ、私は掃除に戻りますねー」
三つ編みを揺らし、小走りでリビングの方に戻って行く赤毛の少女。
それを見送った金髪美少女は、老紳士が来るまでその場でただ立ち尽くしていた。
ドアノブが汚れでくすんだ色になっているので、シルクの手袋越しでも触りたくなかったから。