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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第二章
48/333

10

幌馬車を降りると、目の前には都会が広がっていた。

複数階建ての建物。

大勢の人。

油やガスではなく、電気で光る街灯。


「じゃ、またよろしくな。お嬢さん達」


風景に見惚れている三人を残し、郵便隊は役場を目指して去って行った。

役場でこの街宛ての郵便物を下し、配達をこの街の郵便局に任せるのだ。

その後もたっぷりと積んだ野菜を市場に流さないといけないので、のんびりとしてはいられない。


「久しぶりに人里に帰って来たって感じだ」


セレバーナは口の端を軽く上げた。

神学校が有る街と比べるとここも田舎だが、それでも大勢の他人が通りを行き来している。

不特定多数の中に紛れ込めるこの感覚はとても安心する。


「さて、呆けてもいられない。夜が近いので、まずは宿探しだな。服屋は明日にしよう」


全く快適ではなかった馬車の旅に疲れているペルルドールは、麦わら帽子を深く被り直しながら無言で同意した。

お腹も空いてるし。

近くに居た人に宿の場所を訊いた三人は、人混みに押されてはぐれない様に気を付けながら移動を開始する。

日が沈み掛けていると言うのに、街灯の明かりのお陰で不自由無く歩ける。

そして大通りに入ると、活気の良い商店が目立って来た。


「中々良い街だ。ドレスも高く売れるだろう」


そして到着した宿屋の暖簾(のれん)を潜ろうとしたその時、大通りを駆けて来た中年男性に呼び止められた。


「おーい、お嬢さん達!」


「おや。郵便隊の。どうしました?」


「お嬢さんの中にサコ・ヘンソンさんは居るかい?」


「私ですけど」


一番背の高い少女が前に出ると、中年男性は一通の封筒を差し出した。


「最果ての村に無い名字だから、あんた達かと思ってな。速達だよ」


「わざわざありがとうございます」


「これが俺達の仕事だから気にすんな。これにサインを。……どうも。じゃ!」


中年男性は営業スマイルを残して走り去って行った。


「元気なおじさんだ。シャーフーチにあれくらいのやる気が有れば尊敬出来るのに」


心の底からの言葉を吐いたセレバーナが宿屋の中に入る。


「何がどうなっても、あの人は尊敬出来ませんわ。薄い本を全て処分してもです。気持ち悪い」


大き目の麦わら帽子を被っているペルルドールも宿屋に入り、チェックインしているセレバーナの様子を後ろから眺める。

初めて見る光景が多い旅なので退屈はしない。


「私に速達なんて……。何だろう。差出人は……書いてないな」


宿屋の看板を照らしているライトに近付いたサコは、おもむろに封筒を開けた。

中の手紙に目を通した途端、サコの表情が険しくなる。


「……サコ?早くお部屋に行きましょう」


ペルルドールが宿の外に出て来た。

仲間の表情に不穏な空気を感じ、麦わら帽子のツバを手で上げる。


「どうしましたの?」


「いや。何でも無い」


サコは手紙をポケットに仕舞い、早足で宿屋に入った。

ペルルドールも後を追う。


「何か問題が有るのなら、早急に解決した方が良いのでは?」


「私では解決出来ないんだよ。だから困っただけなんだ。気にしないで」


受付での手続きを済ませたセレバーナが、部屋の鍵を受け取ってから振り返る。


「どうした?さっきの速達に良くない知らせでも書いてあったのか?」


セレバーナの鋭さに苦笑するサコ。


「秘密には出来ないか。詳しくは部屋に行ってからで」


三人は三階の二人部屋に入る。

ベットがふたつの安い部屋。

荷物を下した少女達は、適当なベッドに座って一息吐く。


「さっきの速達は、これ。見れば一発で事情が分かると思う」


サコは、ポケットから取り出した手紙をセレバーナに渡した。

しかし安宿には明かりが無くて真っ暗なので、窓際に移動し、外の街灯を頼りに文字を読む。


「チチ キトク スグ カエレ か。電報だな、これは。最果ての村には電報が届かないから、速達と合わせているのか」


「キトクって何ですの?」


手紙をサコに返したセレバーナは、ペルルドールに無表情を向ける。


「死に掛けているって意味だ」


「一大事じゃないですか!早く帰らないと!」


やっと事態を飲み込んだペルルドールが慌てる。

しかしサコは苦笑するだけで動こうとはしない。


「良いんだ。多分ウソだから」


「……何か深い事情が有りそうだな。もしも話せる事なら、そうだな、夕飯を食べながら聞かせてくれないか」


腕を組んだセレバーナは、おもむろに窓の外を見た。

完全に日が沈んだと言うのに、通りでは大勢の人が行き交っている。

この様子から察するに、夜の外食も不自由無く出来るだろう。


「私の家の問題だけど、アドバイスが貰えるのなら話すのも良いかな。私、考えるの、苦手だし」

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