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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第二章
46/333

8

「お待たせ」


短髪のサコがリビングに入って来た。

ズボンにシャツと言う普段通りの格好だったが、両手になめし革のグローブを嵌めている。


「戦闘が出来るサコには、特別にマジックアイテムを装備して貰いました」


続いてリビングに来たシャーフーチがグローブを指差して説明する。


「攻撃力と防御力を上げられるだけ上げました。悪者の刃物や魔物の牙程度なら絶対に通しません。ただし、効果は一週間です」


「一週間の予定ですから大丈夫だとは思いますが、随分短いですね」


セレバーナの知識の中に有るマジックアイテムは、その殆どが長い時を渡っている。

千年の封印から解かれた聖剣のおとぎ話は有名だ。

勇者が着ていた魔法銀の鎧も、五百年経った今でも効果が残っていた。


「急ごしらえのアイテムとしては長い方です。何百年も効果が続く物は、命やら貴重品やらを使って作っているんですよ。だから滅多に作れません」


「ふむ。認識を新たにする必要が有る様だ。余計な事を言って申し訳有りませんでした」


「構いません。なるべく効果が生きている内に帰って来てください。そして、念の為にお守りの契約もして貰います」


「何の契約ですの?」


ペルルドールが小首を傾げる。


「いざと言う時に私が助けに行ける契約です。契約が有れば外に出られる事が証明されましたから」


「どうすれば?」


セレバーナが訊くと、シャーフーチは少女達の前で右手を開いた。

握られていたのは三枚の白い紙片。


「これを受け取り、この場で自分のサインを書いてください。報酬は、そうですね。銅貨一枚で良いでしょう。それで契約は完了です」


「お金を取るんですか?」


「契約には対価が必要ですから。さぁ、契約を。契約無しで修行の地から離れると師弟契約が崩壊しますのでね」


金の瞳を見開いたセレバーナは、溜息を吐きながら自分の額に手を当てる。


「またそんな重大な事を今更言う。他の街に行っても大丈夫だと言う保証は有るんですか?」


「あれ?言ってませんでしたっけ?だから最初に反対したじゃないですか」


「言っていませんし、積極的に反対していません」


「確かに、積極的には反対しませんでしたね。今の暮らしはいくらなんでも貧し過ぎますからねぇ。その結果による出稼ぎですから、言い訳は出来ます」


育ち盛りな年代の少女達の顔色は、少しばかり悪い。

まともな食事が出来ない状態が続いている為、栄養が足りていないのだ。

弟子が栄養失調で倒れたら師匠の監督不行き届きになるので、きっと、多分、恐らく大丈夫だろう。


「報酬の受け取りは私が助けに入った後で良いでしょう。それぞれ銅貨一枚を用意しておいてください」


適当な態度の師匠に不安を覚えながらも、渋々紙片を受け取る三人。

そしてセレバーナが常備しているペンでサインする。


「どうすれば助けを呼べるんですの?」


ペルルドールの質問に笑顔で応えるシャーフーチ。


「サインをした本人が紙片を破けば魔法が発動します。一度しか使えない物ですが、ピンチの時は迷わず使ってください」


「はい」


三人が揃って頷くと、話の区切りを窺っていたイヤナがキッチンから出て来た。

みっつの包みを持っている。


「はい、お弁当。朝食は村で食べるんだよね?これはお昼の分だよ。――それと、ペルルドール。お財布持った?」


「持ちましたわ。これを忘れたら元も子も有りませんから」


お腹の部分を擦った金髪美少女は、そこに入っている財布の感触を確かめてから弁当の包みを受け取った。

久しぶりに嗅ぐ焼き立てのパンの香り。

サコとセレバーナも弁当を受け取る。


「あと、ポケットに下着の替えを入れておいたから。他に持って行く物が有るなら、今の内に思い出してね。忘れ物しない様に」


「あ、これ下着でしたの?ハンカチかと」


二人のやりとりを眺めていたセレバーナも、手探りで自分の旅支度を再確認している。

まぁ、大きな街へ出稼ぎに行くんだから、必要な物が有ったらそこで買えば良い。


「――問題は無いかな?では、出発するか」


円卓に積まれているむっつの衣装箱を纏めて背負ったサコは、嵩張った箱が崩れ落ちない様に紐で縛った。

セレバーナとペルルドールは、靴が入った箱をみっつずつ手元に引き、イヤナから借りた風呂敷で包んだ。

最後にお弁当を腰紐に結び、準備完了。


「行ってらっしゃい。気を付けてね!」


「行って参ります。イヤナもシャーフーチと二人きりになるんですから、十分に気を付けてくださいませ」


ペルルドールが心配すると、イヤナは「大丈夫だよ」と朗らかに笑った。


「そうなったら責任を取って貰うだけだから」


「何もしませんよ……」


困惑しているシャーフーチをきつく睨んだペルルドールは、笑いを堪えているセレバーナと、苦笑しているサコと一緒に玄関から出た。

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