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夜明けと共に起きたり起こされたりした遺跡の面々は、旅支度の最終調整に入った。
「おはよう、ペルルドール。今すぐ起きてこれを着てね」
イヤナは、天蓋付きベッドの中で眠い目を擦っているペルルドールに着替えを渡した。
それはイヤナの様な農民の娘が着る、みすぼらしいドレスだった。
「これは一昨日からずっと針を刺していた物ですよね?これを作っていたんですか」
「うん。下の村の人達からお下がりを借りて、仕立て直したの。ペルルドールのワンピースとセレバーナの制服は目立つからね」
「お下がり、とは何ですか?」
「村の子供達が着ていた物って事。今回の遠出が終わったら返すから大切に着てね。じゃ、待ってるからね」
イヤナは、そう言い残してペルルドールの部屋から出て行った。
「えー……」
正直、他人が着た物に袖を通したくはなかった。
体臭が染み込んでいそうだし。
だけどわがままを言ってモタモタしていたらまたみんなに迷惑を掛けるし、なによりイヤナが一生懸命繕っていた姿を見ている。
嫌いな食べ物を口にするよりマシ、と覚悟を決めてみすぼらしいドレスを着るペルルドール。
「――香水を着けて、と。量を大目にしておけば臭いが気になってもごまかせますわよね」
金髪をストレートに整えてからリビングに行くと、セレバーナもみすぼらしいドレスを身に纏っていた。
背の低さとツインテールのせいで、かなり幼く見える。
本当にひとつ年上の十四歳なんだろうかと疑ってしまう。
「うん。さすがに何を着ても似合うな、ペルルドールは。顔以外は立派な村娘だ」
「顔以外とはどういう意味ですか?」
「十三の割には大人びていると言う意味だ。都会には王女の顔を知っている人が居るかも知れないから、あれを被ってくれ」
セレバーナが指差す方を見ると、円卓の上で衣装箱が山積みになっていた。
あれを売るのか。
その衣装箱の一番上に新しい麦わら帽子が置いてあった。
「これですか?」
ペルルドールはそれを頭に乗せた。
大人用らしく、しっかり被ると目まで覆われてしまう。
「サイズが合っていません。前が見えませんわ」
「顔を隠すんだから、見えないくらいで丁度良い。普段はこうすれば問題は無い」
顎紐を緩めに結んであげたセレバーナは、麦わら帽子を後ろにずらした。
そうする事によって後頭部で帽子を被る形になり、視界が遮られる事は無くなった。
「はい、これなら……。人目が多くなったら、ちゃんと被れば良い訳ですね」
「その通りだ」
みすぼらしいドレスを着ている二人の少女の準備はこれで整った。