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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第二章
44/333

6

円卓に肘を突いていたセレバーナは、姿勢を正してからシャーフーチに金色の瞳を向けた。


「では、話をしても?」


「今回の事は、魔法ギルドに叱られると判断される部分だけ口を挟みます。貴女達主導でやりなさい」


「分かりました。――ペルルドール。君のドレスを売る話だが、構わないだろうか」


セレバーナは、椅子に座ったままペルルドールの方に身体を向けた。


「ええ。構いません。それがみなさんの役に立つのなら」


「ありがとう。だが、やはりこの近くの村では売れそうもない。また、シャーフーチも手伝ってはくれないそうだ」


「これでも十分甘いんですよ?そこのところ、知っておいて欲しいですね」


「シャーフーチ。余計な口を挟まないんじゃ?」


セレバーナにつっこまれたシャーフーチは、円卓に背を向けていじける。


「大の男が拗ねないでください気持ち悪い」


ペルルドールの厳しい言葉に更に落ち込むシャーフーチ。


「話を戻そう。だから、ドレスを売る為に、少し遠出をしたいと思う」


「遠出、ですか?最果ての村から出るのですか?」


ペルルドールは、籐椅子に座ったまま前屈みになる。

ただのお出掛けなら心躍る話題だ。


「うむ。出来るだけ大きな街が好ましい。そこで短期のアルバイトが出来れば理想的だ。なので、王都付近には近付かない」


「稼げる時に稼ごうと言う訳ですね」


「その通り。ペルルドールは世間知らずだから、社会勉強の為に客商売が良いと思う。しかし、だ。イヤナ」


キッチンに居る赤毛少女の方に顔を向けたセレバーナは、少し声を大きくした。


「問題がひとつ有る。それは庭の畑だ」


「あー。そっかぁ。遠出って事は、何日も畑の世話が出来ないって事になるかぁ」


イヤナはキッチンから返事をする。


「常識として、師匠であるシャーフーチには頼めない。だからイヤナに留守番を頼む事になるだろう」


「うん、良いよー」


「気を悪くして貰いたくないのだが、行きの旅費は自腹だから、と言う理由も有る。我々には多少の持ち合わせが有るから」


「気にしないでー」


「ペルルドールも、それで良いだろうか。そこで質問なんだが。君は財布を持っているだろうか」


「さい、ふ……?」


ペルルドールは、セレバーナの質問に小首を傾げた。


「その反応で十分分かった。王女が自分で金銭を持ち歩く訳が無いからな。イヤナと同じく、無一文だった訳か」


あっ、と口を開けて思い出すペルルドール。


「いえ、持ってますわ。お金を入れて置く小袋の事ですよね。爺が持たせてくれました」


「いくらくらい持っている?」


「えっと、金銀銅が、懐に入れても邪魔にならないくらい入っています」


セレバーナは腕を組んで視線を床に下す。

石造りの床に敷かれている絨毯は、ペルルドールの従者が持ち込んだ物だ。

これも高価な品に違いない。


「ふむ。金貨が有るのなら、それなりに持っているか」


「私とセレバーナで旅費を立て替える予定だったけど、大丈夫そうだね」


サコが言うと、お盆に皿を乗せたイヤナがリビングに戻って来た。


「はい、ペルルドールの分。お昼のウサギだから、感謝して食べてね」


円卓に置かれたのは、菜っ葉とウサギの肉を煮込んだ塩味のスープだった。

ペルルドールは円卓の椅子に席を移し、女神に恵みを感謝してからスプーンを手に取った。


「外出の日数は、トラブルが無ければ一週間前後とする。そんなところかな。宜しいでしょうか?シャーフーチ」


セレバーナは、少女達に背を向けたままのシャーフーチに伺いを立てる。


「良いんじゃないでしょうかね」


「では、それで決定しよう。出発は明後日にしようと思うが、どうかな?ペルルドール」


「明後日ですか。早いですね。何日も情報収集した後になると思っていました」


「私もそのつもりだったが、生活費が無い訳だからな。慎重に行動しても腹は膨れないし、金は減る一方だ。だから当たって砕けろ作戦にした」


「確かに。ドレスはまだまだ沢山有るので、最初はそれで良いでしょう。――わたくしはいつの出発でも構いませんよ」


「では、明日は旅立ちの準備をしよう。私とサコは自室に戻って準備の下準備をする。おやすみ」


「おやすみなさい」


セレバーナとサコがリビングから出て行った。

目を離した隙にシャーフーチも居なくなっている。


「ゆっくり食べてね」


落ち着いた声でそう言ったイヤナは、自分の席に座って縫物を始めた。

ペルルドールは、スープを食べながらその様子を眺める。

糸が付いた針を布に刺している。

初めて見る奇妙な行動から目が離せない。

何の目的が有って、そしてどう言う意味が有るんだろう。


「ん?これ?ペルルドールの旅支度。期待したらダメだよ。えへへ」


熱い視線に気付いたイヤナは、針先に頭の油を付けながらはにかんだ。


「……?」


良く分からないが、取り合えず、久しぶりに口にした肉はとても美味しかった。

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