5
ペルルドールは自室の殆どを占領している天蓋付きベッドの中に居た。
普段のクセで、まどろみながら長くて金色の髪を手で纏める。
「ん……」
「目が覚めた?」
他人の声に反応して頭を上げると、入り口ドア近くで赤毛の少女が椅子に座っていた。
辺りは薄暗い。
「イヤナ?どうしてわたくしの部屋に?あれ?」
混乱するペルルドール。
いつベッドに入ったのか、全く覚えていない。
今が朝なのか夜なのかもさっぱり分からない。
「昼からウサギ狩りに行ったの、覚えてる?」
イヤナは縫物をしていた手を下し、優しい声で言う。
「ええと、最果ての村の近くに有る森に四人で入ったのは覚えています」
「うん。そこで捕まえたウサギを解体したら、ペルルドールは貧血で倒れちゃったの。だからここまでサコに運ばれて来たって訳」
思い出した。
小動物の首を刎ね、腹を裂いていた場面なので、あんまり思い出したくはないが。
「わたくし、血を見て、気絶したんですね……。はぁ……」
上半身を起こしたペルルドールは、自分の情けなさに頭を垂れる。
相変わらず仲間達に迷惑を掛けている。
「夕食、出来てるけど、食欲は有る?人数分のウサギを捕まえられたから、ペルルドールの分も有るけど」
「えっと、夕食、ですか?もうそんな時間なんですね」
「うん。みんなはもう食べ終わってるよ」
「食欲は、正直有りません……」
しょんぼりするペルルドールを見て、「んー」と唸るイヤナ。
「無理にでも食べた方が良いと思うけどな。食べ物が有る時はしっかり食べないと。それに……」
赤毛の少女は、薄暗い部屋の中でニッコリと笑む。
「殺したウサギが勿体無いじゃない。折角美味しいお肉になってくれたのに」
その直接的な言い方に多少の嫌悪感を覚えたペルルドールだったが、正論だ。
今まで食べて来た肉類は全て獣を解体して作られた物なのだと、身に染みて分かった。
命を奪ったのなら、それを無駄にするのは可哀そうだ。
「……食べます」
「うん。それが良いよ」
立ち上がったイヤナは、ペルルドールがベッドから降りて靴を履いたのを見てから燭台のロウソクを吹き消した。
等身大の天女と鶴で対になっている燭台を始めて見た時は驚いたが、意外に使い勝手は良い。
高さが有るので、部屋全体が照らされるし。
今まで座っていた椅子と縫物を持ったイヤナが先に廊下に出る。
「あ、それ持って来て」
「はい」
今までイヤナの手元を照らしていた小さな燭台を持ったペルルドールが続いて部屋を出た。
それで夜の廊下を照らしながら並んで歩き、そして明るいリビングに辿り着く。
「すぐに温めるから、待っててね」
持っていた椅子と縫物を適当な場所に置いたイヤナは、そう言ってからリビング奥に有るキッチンに行った。
木目が美しい巨大な円卓に着いていた二人の少女と灰色ローブの男が金髪美少女の登場に気付き、リビングの入り口に立っている仲間に視線を向けた。
「あの、みなさん。わたくし、またみなさんに迷惑を掛けたみたいで。――ごめんなさい」
謝罪の為の頭の下げ方を教わらずに育った王族なので、直立不動で謝るペルルドール。
しかしその表情は心の底から恥じている人の物だった。
「初めから上手に出来る人は居ません。その謝罪だけで十分です」
円卓の上座に座っているシャーフーチの言葉に同調する様に他の少女達が頷く。
全員に謝罪が受け入れられたと判断したペルルドールは、決まりが悪そうにしながら頷きを返した。
「あ、ありがとう」
リビングに入ったペルルドールは、隅で存在感を放っている大きな籐椅子に座った。
そこが金髪美少女の定位置だ。
全員が自分の居場所で落ち付いたので、リビングの雰囲気が日常の物に戻った。