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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第二章
40/333

2

立ち去る勇者を見送ったツインテール少女は、腕を組んで溜息を吐いた。


「やれやれ。これで厄介者は去った」


「ありがとう、セレバーナ!変な事にならなくて、本当に助かったよ!」


失態が無かった事になった大女が安心し切った笑顔になる。


「どういたしまして。その代償と言う訳ではないのだが、ひとつお願い事を頼まれてくれないか」


「何?」


セレバーナは身体を横に向ける。

その視線の先にある平屋の建物は、村の役所。

他の木造民家より、ちょっとだけ作りがしっかりしている。


「私に届いた荷物を運んで欲しいんだ。着替えなどの軽い物はすでに運んだんだが」


「重い物を運んで貰いたいんだね。オッケー。任せてよ」


「丁度サコが来てくれて助かった。ところで、サコは何の用で村に来たんだ?そちらを先に済ませて貰っても構わないんだが」


サコと呼ばれた大女が大げさに肩を竦めて見せる。


「新しい仕事が無いかと思って。でも、給料が出る様な仕事は無かったよ」


「ふむ。時期が悪いのかな。まぁ、慌てる事は無い。シャーフーチの指示が有る訳でもなし」


二人は会話しながら役所に入る。

直後、セレバーナが眉を上げた。


「おや。噂をすれば影と言う奴か」


灰色のローブを着た男がカウンターの前に立っていた。

フードを脱いでおり、だらしなく伸びた黒髪を見栄え悪く肩に掛けている。


「セレバーナ。サコ。どうしたんですか、二人揃って」


ローブの男が弟子二人に気付いた。

顔だけは割と良い男は、師匠に対して頭を下げている少女達を見て微妙に頬を引き攣らせている。


「私は荷物の受け取りです。シャーフーチこそ、なぜこんなところに居るんですか?貴方は封印されていて、あの遺跡から出られないのでは?」


「一部の例外と言う物が有るんですよ。完全に世の中から隔離されたら、逆に封印は作用しませんから」


「そう言う物ですか」


腕を組むセレバーナ。

弟子は冷静だが、師匠は妙に落ち付いていない。


「神学生だったセレバーナなら分かるはず。戒律に厳しい神学校でも、完全に俗世と切り離したりはしないでしょう?」


「そうですね。世の中を見ない勉学は無意味ですからね。おっと、役所の人を待たせてしまっている様ですよ、シャーフーチ」


「え?ああ、すいません。ありがとうございます」


話し掛けるタイミングを見計らっていた役所のお姉さんがシャーフーチに大き目の封筒を渡した。

受け取りのサインをしたシャーフーチは、素早くカウンターから離れる。


「……大きさ、シャーフーチが持った時の重さの感じから察するに……。薄い本、ですか?」


セレバーナが小声で呟くと、シャーフーチの動きが止まった。


「薄い本って、何?」


サコが訊いたら、セレバーナは金色の瞳を天井に向けた。

丸見えの梁は太い。


「さぁ?単純に、厚さが薄い本かなと思っただけです。ただ、図星の様ですが」


セレバーナは、弟子達に背中を向けているシャーフーチをジト目で見る。


「それを否定する気は有りませんが、自重はして貰いたいですね。正直、気分の良い物ではない」


「は、ははは。では、私は先に帰りますね。貴女達も、気を付けて帰って来てください。それでは」


あらぬ方向を見ながらそう言ったシャーフーチは、一瞬で姿を消した。

彼の瞬間移動はいつもの事の様で、役所の人達は特に驚いてもいない。


「まさか、この村を守っているのは、薄い本の通信販売を利用したいから……?」


セレバーナは腕を組んで独り言を呟く。

一般人は封印の丘に入れない。

勇者の称号を持った者でさえ、入ったら魔物に襲われて敗走する程だ。

なので、郵便屋や宅配業者も入れない。

だから封印の丘に住む者が通信販売を利用しようとした場合、この役所を頼るしか方法が無い。

この役所は郵便局も兼ねているので、局留めを利用すれば気兼ね無く遠方の買い物が出来ると言う訳だ。

まさか、な……。


「セレバーナ?荷物、受け取らないの?」


サコに肩を叩かれたセレバーナが思案から覚める。


「ああ、すまない。もう受け取ってあるのだ。ガラス等の割れ物がメインなので、注意して持って貰えるだろうか」


「分かった」


役所の隅にふたつの木箱が置かれてあった。

それを二人でひとつずつ持つ。

割れてしまわない様に隙間に布が詰めて有るので、ガラスがぶつかる音はしない。


「しまった。瞬間移動で帰るのなら、シャーフーチに持って行って貰えば楽だった」


役所を出て数歩歩いたところで、セレバーナがそこに気付いた。

しかしサコが苦笑しながら首を横に振る。


「さすがに師匠を使うのは道徳的にマズいんじゃ……」


「魔王に道徳を求めるのもどうかとも思うが、サコが正解だな」


二人の少女は、重い荷物に苦労しながら村を出た。

そして村のすぐ隣に有る封印の丘を登り、少女達の修行の場である遺跡を目指した。

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