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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第一章
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4

「あの、これは一体何事でしょうか?」


赤毛の少女が恐る恐る訊く。

師匠と老紳士の会話は穏やかな語調だったが、緊張感が半端ではなかった。


「見ていれば分かりますよ。多分、一目で存在感に圧倒されるはず」


「?」


赤毛の少女には知り様も無い事だが、老紳士が向かった先に有る箱型馬車は一人乗りの女性仕様だった。

高級品である馬車を個人仕様で所有出来る人物は、この国では数人しか居ない。

その内の一人がアレに乗っている。

老紳士は馬車のドアを開けずに中の人物と会話した後、御者に指示を出して馬車を移動させた。

出来ればこのまま帰ってくれないかなぁとローブの男は思ったのだが、白馬に牽かれた馬車は門前に横付けされた。


「うわ、綺麗な子……」


小振りな箱型馬車から降りて来たのは金髪碧眼の美少女だった。

豪奢な青いドレスが良く似合っている。

年齢は赤毛の子と同じくらいか。

雑草が生え捲っている道を歩いているだけなのに、童話の絵本から飛び出して来たかの様に麗しい。

同性の赤毛少女をも魅了する美しさを兼ね備えた金髪美少女は、ローブを着た男の前で立ち止まる。


「名乗りは禁止でしたわね」


その声も澄んでいて耳に心地良い。


「はい、そうです。ですから膝は折りませんよ」


「許します。わたくしが魔法使いへの弟子入りを希望する者です。貴方がわたくしの師となられる御方ですか?」


「そうです。詳しい話は日没後です。お持て成しは出来ませんが、それまで適当に時間を潰してください」


「分かりました」


頷いた美少女が遺跡に足を踏み入れる。

その所作は優雅だが、玄関の汚さに表情を曇らせている。


「ああ、それと」


ローブの男は老紳士に微笑みを向けた。

美少女の後ろに控え、当然の様に後に続こうとしていた老紳士が足を止める。


「弟子希望者以外は立ち入り禁止ですので、そこのところはご了承ください」


「私は……」


「この遺跡には不審者避けの呪いが施されています。それ以外の封印も、色々と。弟子希望者達の安全の為にも、お引き取りを」


ローブの男は、また老紳士の発言を途中で止める。


「なるほど……。ですが、せめてお部屋のメイキングだけでもご許可願えませんでしょうか?」


ローブの男は、食い下がる老紳士に面倒臭そうな表情を向ける。

キッパリと断ろうと口を開き掛けた時、赤毛の少女が言葉を発した。


「あの、お師匠様?この家、長い間、全く掃除してませんよね?」


「え?ええ。自分の部屋以外は使いませんし」


「汚れが酷過ぎて、私の部屋とキッチンの掃除だけで一日が終わりそうです。リビングの掃除まで手が回りません」


赤毛の少女は金髪美少女のドレスに目を向ける。


「だから、彼女が住む部屋の掃除くらいは許可しても良いんじゃないでしょうか。どう見ても掃除が得意そうではありませんし……」


「うーん。しかしですねぇ……」


「それに、キッチンが使えないので、お昼ごはんが……」


「ああ、食事が必要でしたね。失念していました。分かりました。条件付きで特別に許可しましょう」


「条件とは?」


老紳士が訊く。


「二階に上がらない事。遺跡内の物を持ち出さない事。持ち込むのは構いません。後は、壁や床に使われている石を傷付けたりしない事、でしょうかね」


条件を聞いていた赤毛の少女が気まずそうな顔をした。


「床を傷付けたらダメなんですか?私、ブラシで擦りましたが。思いっ切りゴシゴシと」


「それくらいなら大丈夫です。ただ、石の状態を変えると魔法が発動したりします。最悪遺跡が崩れます。無茶をしなければ大丈夫だとは思いますが」


「石の状態を変える、とはどう言う事ですか?」


赤毛の少女は純真な瞳で質問する。

それを見たローブの男は苦笑した。


「貴女は魔法を学びにやって来たんでしょう?そう言った知識は、これから時間を掛けて私が教えます。だから弟子にならない人を入れたくないんですよ」


「あ、そっか。どうしてそれをしたらいけないかの説明が難しいから弟子以外近付くな、って事なんですね」


「そうです。まぁ、統率の取れた集団の様ですから、私の言い付けを守ってくれるでしょう。ですね?」


ローブの男に視線を向けられた老紳士は、畏まって頷いた。


「必ず条件を厳守すると約束致しましょう」


「食事の炊き出しはそちらにお願いしますか。彼女達二人の昼食と、夕食。あれだけの人数です、食材の準備は十分にしてあるでしょう?」


「その様に手配します」


老紳士は素早く行動する。

そんな会話を他人事の様な顔で見ていた金髪美少女は、柔らかそうな毛が付いた扇子で口元を覆いながら言葉を発した。


「わたくしはどちらで時間を潰せば宜しいのでしょうか」


「あ、私が案内します。良いですよね?お師匠様」


赤毛の少女がそう切り出したので、男は即頷いた。


「はい。面倒を見てあげてください」


身分は正に雲泥の差だろうが、女の子同士で仲良くしてくれれば楽で良い。

弟子同士の関係作りが上手く行かなかったとしても、それは当人同士の問題。

ローブの男の負担にはならないだろう。


「じゃ、後は任せましたよ」


話が一段落したので、ローブの男はのんびりと二階に戻った。

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