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24

人気の無い貴族街に突如として現れた二人の少女は、周囲を見渡して現在位置を確認した。


「おっと、魔力不足のせいで位置がずれたか。少し歩くが、まぁ、魔物騒ぎで人通りが無いから大丈夫だろう」


「大半の貴族は子供を一時的に別の街に移していますので、余計に人気は無いでしょう」


歩き出す黒髪少女と金髪美少女。


「審判の筆を持っているクレア・エスカリーナは、神学校時代の私の友人だった。しかし、正月過ぎに一悶着有って嫌われてしまった」


「あら」


「なので、私一人では争いになるかも知れなかった。それは避けたかった。王女が居れば、問答無用で魔物を操ったりはしないだろうと読んでいる」


「友人とは戦いたくない、と言う訳ですわね」


「そうだ。魔力の無駄遣いもしたくないしな。――ここだ」


エスカリーナ別邸に辿り着いた。

立派な門構えの豪邸は、外から見る限りは何の問題も無い。


「先程見に来た時は中で物が壊れる音がしたんだが……随分静かだな」


無表情で言うセレバーナにギョッとするペルルド-ル。


「魔物を操るアイテムを持っているんでしょう?怪しい物音を聞いたのなら、時間に余裕は無かったのでは?」


「だから無理を承知で時間を操作したのだ。君の潜在能力はその影響を受けないだろうからな」


「あら、どうしてですの?」


唇の端を上げるセレバーナ。


「イヤナの潜在能力が『緑の手』ではなかった様に、君の潜在能力も別の物の可能性が有るのだ。まぁ、女神にならなかった時点で無効だろうが」


「そうなんですの?」


「ソレイユドールは、自分の子孫が女神候補になった場合、かなり有利な能力を持って欲しいと願っていたんだろう。だから別の物であると思っている」


「あ……」


王女のドレスを着た金髪美少女が深刻そうな表情になったので、セレバーナは青い小手を指で弾いて陶器の様な音を鳴らした。


「私から話を振っておいて何だが、今はそれどころではないので、それについては後でゆっくり考えてくれ」


「そ、そうですわね。今は審判の筆ですわね」


「一番として、クレアを追い詰めてはいけない。ヤケになられたら街に被害が出る。住民の避難は指示してしていないから、魔物を暴れさせる訳にはいかない」


「街に被害は出ないから大丈夫だと仰るので、王城からも指示していません。お金を持っている貴族は別ですが、一般住民の大移動は現実的ではありませんし」


王都は有事の際の最終避難地域なので、本来なら他から国民が逃げて来る場所だ。

そこから逃げると言う事は王の威厳の失墜を意味するので、ヴァスッタの時の様にさぁ逃げろと言う訳には行かない。

危険が予想出来ていたらその限りではないが、余程の事態にならない限りはしたくない。


「いざとなったら魔王様に出張って貰うが、それは最後の最後だ。――では、鍵を開けてくれ」


王女のドレスを着ているペルルドールは、大きな門に手を掛け、潜在能力を使って鍵を開ける。

手入れが行き届いているのか、非力な王女の腕力でも大きな鉄門を動かす事が出来た。


「開きましたわ」


「ありがとう。玄関の鍵も頼む」


「分かりましたわ」


広く長いアプローチを歩き、大きな玄関ドアを王女に開けさせる。

館に一歩足を踏み入れた途端、二人の少女は動きを止めて顔を見合わせた。


「この臭い、血?」


顔を顰めるペルルドールに頷くセレバーナ。


「警戒レベルを上げよう。ペルルドールはここで待っていてくれ。退路を確保していて欲しい」


「わたくしも進みますわ。王都の危機ですから」


「何度も言うが、ソレイユドールが魔力を吸って成長し、新大陸になろうとしている」


セレバーナは、神学校の制服のスカートに挟んであった三十センチ程の木の棒を取り出した。

のし棒の様な形の魔法の杖。


「だから、転移魔法を使おうにも、かなりの集中を要する。何が言いたいのかと言うと、攻撃と逃走を同時に準備する事は出来ないと言う事だ」


「審判の筆の有無を確認しなければ攻撃も逃走も出来ないと言う訳ですね」


「違う。君は国の未来を背負う大切な人だから、危険な場所に連れて行けないと言いたいのだ。私は君を守れない」


「大丈夫です。わたくしだってセレバーナと共に修行した身。自分の身くらいは守れますわ」


金色の髪に留めていた黄色い蝶を飛ばすペルルドール。

これは彼女の使い魔で、目と耳の代わりになる。


「それに、これを先回りさせておけば、先の危機は分かります。わたくしはただの鍵ではありませんのよ?」


ドヤ顔のペルルドールに釣られて笑みを零すセレバーナ。


「そうだな。それは失礼した。なら、転移魔法で逃げる用意をしておいてくれ。私は女神の鎧の加護が有って魔物には襲われないから、いざと言う時は私の後ろに」


腕と足に嵌めている青い鎧を示すツインテール少女。


「では行くぞ」


セレバーナは、魔物の気配を探りながら進む。

ペルルドールにはそれが感じられない為、一歩後に続く。


「血の匂いはそちらからですわ。……ん?ちょっと、おかしいですわ。この臭い、腐臭?」


「腐臭?腐った臭いか?」


ペルルドールは、先行させている使い魔が感じている情報に集中する。

と言うか、いつの間にか嗅覚も感じられる様になっている。


「腐っている、とも違いますが、不快な臭いが鮮血の臭いに混じっていますわ。何と申しましょうか、ええと……」


忍び足で進みながら考えるペルルドール。


「修行中、サコは干し肉を作っていましたでしょう?」


「ああ。ヒマを見付けては作っていたな。アレには助けられた」


「一度だけ血抜きに失敗して腐らせた事が有りました。ちょっとだけ残った血のせいだったので、鼻を近付けなければ気付きませんでした。そんな感じですわ」


「ふむ。貴族の家に有る臭いではないな。魔物が発する何らかの臭いの可能性が有る」


「臭い魔物、と言う事ですか?」


「恐らく。引き続き探ってくれ。魔力を感知される可能性も有るから、深追いはするなよ」


「分かっていますわ。――臭いの元は、そのドアの向こうの様ですわ」


ペルルドールは廊下の奥の方を指差した。

人の気配が全く無く、昼間だと言うのに薄暗いので、オバケ屋敷の様な底冷えする恐ろしさがそこに有った。

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