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「人為的に魔物を暴れさせるアイテムが使用される、と仰いましたよね?どう言う事かしら」


ペルルドールが小首を傾げると、プロンヤは深刻そうに俯いた。


「言葉通りなら、人の力で魔物の行軍を乱せるアイテムが有る、と言う事になりますが……」


「その通りだとすると、セレバーナがあんなにも急いでいたのにも頷けますわ。プロンヤ、どうにか情報収集は出来ませんの?」


金髪美少女にせがまれた女騎士は、己の無力さに悔しそうな顔をしながら首を横に振る。


「情報収集に使えるのはメイドしか居ませんが、彼女達はジアナ様と共にトロピカーナ様の出立の準備を行っています」


「対策本部に多くの人員を割いた事が裏目に出ているのね……」


ペルルドールはプロンヤに向き直る。


「何か策が有るか考えてみて。わたくしも考えてみますわ」


難しい顔をした妹姫が椅子に座った途端、獣の咆哮が王都中に轟いた。

その大音量で窓ガラスが小刻みに振動する。

窓の近くに居たトロピカーナが驚き、よろけた弾みで数歩下がった。


「何事?」


座面に弾かれる様に立ったペルルドールが言うより早く動き、トロピカーナの背を支える赤い全身鎧の女騎士。


「ドラゴンが吼えた様ですね。……む。あれは、砂埃?火の手ではない様ですが……」


窓際に寄ったプロンヤは、カーテンを少し開けて目を凝らす。

ペルルドールも窓際に来たが、良く分からない。

城壁が高過ぎる為、王都の様子が見えないのだ。

巨大なドラゴンの頭がゆっくりとこちらに進んで来ている様子以外はいつもの空だ。


「魔物が暴れているのかしら?」


「セレバーナさんの慌て様から察するなら、そうなのかも知れません」


「お姉様。望遠鏡をお持ちですか?」


ペルルドールは、ヒマ潰しに王都の様子を見る為の望遠鏡を持っている。

いくら城壁が高いとは言え、姫城の一番高い所に行けば背の高い建物の様子くらいは見えるから。

自分と同じ境遇に有る姉姫も持っているだろうと思って訊いたのだが、予想通り、姉姫は棚を指差した。


「有りますよ。そこに」


「お借りしても宜しいでしょうか」


「構いませんよ」


綺麗な金細工の付いた望遠鏡を棚から取り出したペルルドールは、それを使って遠くを見てみた。

もたもたしていたせいで砂埃が落ち着いてしまった為、魔物が暴れているかの判断は出来ない。


「もどかしいですわ。やはり情報収集が必要ですわね」


「こちらの成果は無しか。仕方が無いが」


再び現れる黒髪のツインテール少女。


「あら、もう戻って来ましたの?街はどうなっていますの?」


「世界の歪みを利用し、イヤナと協力して時間の進みを操っている。ここでは数分しか経っていないだろうが、王都は数時間経っている」


セレバーナは、神学校の制服を叩いて砂や埃を落とす。

服は薄汚れているが、両手両足に嵌めている青い甲冑は美しいままだ。


「今は王都全ての時間を操り、私の周囲以外は時の進みが遅くなっている。この隙にペルルドールの潜在能力の協力を得たい」


「わたくしのアンロックを?」


「ああ。魔物を操っている犯人を見付けたのだが、ある所に閉じ籠って出て来ないのだ。その人物をどうにかしないといけない」


「説明して欲しいんですが、その時間はありませんの?」


「何も知らないと全力を出せないだろうから、掻い摘んで説明しよう。――魔法ギルド長に見せられた女神の時代の夢は覚えているな?」


「ええ」


「それに蝶の羽を持った審判と呼ばれる存在が出て来た。そいつが持っていたのが審判の筆だ」


「ああ、確かにそんな妖精が居ましたわね。とすると、それはその女神の鎧レベルのアイテムではありませんの?」


「下手をすれば世界神レベルのアイテムになるので、女神の上位にあたるかも知れない。それを使って魔物を操っている者が居る」


「大変じゃありませんか」


「目的は不明。今はドラゴンが魔物を制御しているが、量が多いので制御しきれていないのが現状だ」


「さきほどの咆哮はもしや、勝手な行動を取った魔物を大きな声で叱ったとか?」


「正解だ。魔物の列を乱した謎の力の発信元を探ったら、犯人が見付かった。それが現在の状況だ」


「事情は分かりました。参りましょう」


「頼む。審判の筆を封印しなければ、ソレイユドールの願いである魔物の害の撲滅が叶わない。絶対にこの世界に放置してはならない」


「分かりましたわ」


「では転移魔法で移動するぞ。手を繋ごう」


セレバーナとペルルドールが手を繋ぐと、プロンヤが慌てて寄って来た。


「警護無しで王都に出るのは危険です。私も連れて行ってください」


しかしセレバーナはツインテールの頭を横に振る。


「無理です。ドラゴンが周辺の魔力を吸い取っているので、余計な魔法は使えないんです。どうしても来たいのなら自力でお願いします」


「緊急事態の様ですので仕方が有りませんね。場所はどこでしょうか」


「西の高級邸宅街に有るエスカリーナ家別邸です。貴族なので名前だけでも住所が分かるでしょう。では、ペルルドール。飛ぶぞ」


「はい」


そして少女二人の姿が消えた。


「申し訳ありません、トロピカーナ様。予定の時間より早まりましたが、警護をジアナ様と交代致します」


「構いません。妹を護ってください」


「は!」


姉姫に頭を下げたプロンヤが部屋を出て行った。

高級邸宅街なら、王族避難用の隠し通路から直通で行ける。


「……この様子だと、お母様も新大陸に連れて行く事になりそうですわね」


真実の耳と言う潜在能力を持っているトロピカーナは、弱々しい溜息を吐きながらベッドに腰掛けた。

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