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魔法ギルドはガランとしていた。
何度も足を踏み入れているので普段から人が少ない施設である事は知っているが、それにしても人が少な過ぎる。
「まぁ、百鬼夜行の対処で出払っているんだろうな。さて、ティセさんなら状況を把握していると予想して来たのだが、居るだろうか」
ギルド長の秘書なら、魔法ギルドに集まって来る情報の全てを処理しているだろう。
そう言う仕事をするのが秘書だろうし。
「受付の人に許可を取ろうと思ったのだが、それすら居ないな。必要な行動だから仕方が無いが、事を起こした一味としては申し訳なさが先に立つな」
無人の廊下を歩き、ギルド長室を目指すセレバーナ。
こんな行動をすれば何も知らないギルド員に足止めを食らって事情説明をしないといけないのだが、誰も居ないのでそんな事態にはならない。
「こんにちは。ティセさん、いらっしゃいますか?」
奥まった所に有るギルド長室のドアをノックしたが、返事が無い。
ギルド長がシャーフーチのサポートを陰ながらしているから、一緒になって出払っているのかな?
なら神学校に行ってみるか、と思ったところでドアが開いた。
「キャ!?ビックリした、セレバーナさんでしたか。ドアの前に立っているから」
出て来たのは第二秘書のハマハさんだった。
優しいお姉さん的な雰囲気を持つ彼女は、大量の書類を抱えている。
彼女の仕事部屋はもっと奥の書庫付近に有るので、ここで会うのは珍しい。
と言うか、顔を見るのは二回目で、挨拶以外の言葉を交わしたのは初めてだ。
「ノックしたのですが、気付かなかった様ですね。ちょっと確認したい事が有るのですが」
「あ、はい。私は他の部署に行かないといけないので、ティセさんにお願いします」
「分かりました。失礼します」
ギルド長室に入ると、金髪美女のティセが一人で何やら喋っていた。
「ハーセル地方の魔物は全て移動した様です。監視員を追尾させます。以上」
溜息を吐いてから口を閉じたティセは、ドアが閉った音に気が付いて顔を上げた。
魔法の水晶玉を使ったテレパシーで誰かと話していたからノックに気付かなかった様だ。
「セレバーナさん。どうしてこんな所に?」
「確認したい事が有りまして。前置き無しで訊きます。魔王教は何か怪しい動きをしていますか?」
「魔王教ですか。さすがに頭が痛い部分を気にされますね」
「と、言いますと?」
「彼等は魔物の行進の邪魔をしています。魔王を信仰するのは自由なのですが、魔物を神格化しているのか、危険な距離まで近付いて祈ったりしています」」
「祈り、ですか?」
「肉食の魔物も居るのですが、今はまだ犠牲は出ていません。魔王の抑制のお陰なのでしょうが、それがいつまでも続くとは限らないので困っています」
「魔王教の目的は分かりませんか?」
「分かりませんね」
眉を顰めたセレバーナは、一番気になっている事を切り出す。
「冬にマイチドゥーサ神学校が有る街で起こった魔物事件はご存知ですか?」
黒髪少女が訊くと、ティセは虚を突かれた様な顔をした。
話題の切り替えが唐突だったから当然だろう。
だが、のんびりと会話の順序を構築しているヒマは無いのだから仕方ない。
「はい。神学生を含めた数人が魔物に襲われたとか。その魔物は人が操っていたとの事でしたので、ここは勿論、冒険者ギルドでも話題になりました」
「あの事件の依頼主は捕まりましたが、実行犯と魔物を操っていた『何か』はまだ見付かっていません」
「あ。――なるほど、あの事件で使われていた何かが、今回も悪さをしているのではないか、と心配されている訳ですね」
「その『何か』はかなり強大な魔物も操れる様ですので、かなり厄介です。魔物の行進はどんな状態ですか?」
「報告では三ヶ所で行進の乱れを確認しています」
「三ヶ所も。大方は魔王教のせいでしょうが、『何か』が複数有る可能性も捨て切れないか。そうなら面倒なので考えたくはありませんが……」
「行進の長さはすでに数キロに渡っているので、魔王の指示が行き渡っていないんでしょう。今、ギルド長が調整中です」
「魔王教以外の被害は?」
「ギルド員を各地の監視に向かわせていますが、今の所、悪い報告は有りません」
「今現在の情報では、魔王教はただ迷惑な存在、と言った位置付けになりますか」
「そうなりますね。言葉は悪いのですが、死にたいなら勝手にしろと言う対処しか出来ませんから。人手が足りないので」
「そうですか……」
腕に着けている鎧を撫でるセレバーナ。
意識すれば腕を組むクセは出ない。




