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セレバーナよりも小食なので、すでに食事を終えているトロピカーナが微笑を浮かべた。
「貴女達の間には確かな絆が有るのですね。わたくしもイヤナさんとやらとその様な絆が作れるでしょうか」
「イヤナは誰とでも仲良く出来る奴だから心配はいりませんよ。さて、ごちそうさま」
食事を終えたセレバーナは、王女姉妹から離れた所にあるテーブルに移動した。
そして預言書の作成に入った。
こんな物を作る気は無かったのだが、あまりにもヒマなので簡単に作ってみた。
将来、滅びに対する心構えと回避方法の推理を人類に課せる為に。
意味も無く実在もしない三種の神器に謎を絡めたりしたら、未来の人間はさぞ頭を捻る事だろう。
気紛れ作成なので、未完成だったり気に食わなかったら無かった事にするが。
不測の事態で姫城に帰って来られなくなっても、穂波恵吾が使っていた異世界文字で書いているから、書き掛けで放置しても簡単には解読出来ないだろう。
そうしていると食器が片付けられた。
王女姉妹は貴族家紋辞典を広げ、何やら討論を交わし始めた。
姉姫はベッドに横になったままだが、小難しい話を暗唱している。
家紋のデザインと由来を覚えるのが今日のお勉強らしい。
面白そうだ。
セレバーナには思い付きもしなかった事だが、そう言った歴史も大事な物だ。
その知識を持ったトロピカーナが王室を作れば、外国にも家紋が産まれるだろう。
そしてお昼近くになった時、女騎士のジアナが部屋に入って来た。
外の情勢を姫達に知らせる為、前日から早朝までのニュースを報告している。
やはり各地で湧き出ている魔物が騒ぎになっている様だ。
事前に心配していた範囲内で被害が出ている様だが、死者は出ていないらしい。
そこはイヤナとソレイユドールが上手くやっているんだろう。
シャーフーチも、多分頑張ってるだろう。
「王城と議会は魔物の対処に追われています。ですので、クーデターは棚上げになっています」
ジアナの報告に溜息を洩らす姉姫。
「下らないイザコザが予定通りに有耶無耶になるのは良い事ですわ。しかし、混乱に乗じて企みを進める不埒者は居るでしょう。気を付けなさい」
「は。――そして、魔王教と呼ばれる一団が現れ、世間の不安を煽っています」
「何?魔王教だと?」
セレバーナはペンを置き、無表情の顔を上げる。
「ご存知ですの?」
ペルルドールが小首を傾げる。
「ちょっと縁が合ってな。――魔王教が何をしているか、詳しく教えて貰えますか?」
「魔物の大量発生を利用して信者を増やそうとしていますね。現段階では無害ですので、こちらとしては手を出す事はありません」
対処したくとも人手を割く余裕が有りません、と言う黄金の鎧を着た女騎士。
「ふむ。宗教絡みは神学校か魔法ギルドに行かなければ詳細は分からないか。仕方ない。ちょっと行って来るか」
書き掛けの紙の束に文鎮を乗せたセレバーナは、面倒臭そうに立ち上がった。
王女のドレスを着ているペルルドールも、無意味に派手なスカートを捌きながら立ち上がる。
「状況が動いている中で要の人物が動くのは得策ではないと思いますが」
「絶対に失敗出来ないから、不安要素は完璧に取り除く。心残りもな。なぁに、すぐ帰って来るさ。帰って来れなかったとしても、イヤナに従えば良い」
そう言い残したセレバーナは、転移魔法を使って姿を消した。




