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雪解けが完全に終わった最果ての村は農作業の準備に追われていた。
人口は少ないながらも、王都のオフィス街に似た忙しい空気に包まれている。
だから、宿の前で悩んでいる少女達に話し掛けて来る村人が数人ほど居た。
「断わるのが心苦しいから、二人でこの格好しておけば野良仕事に誘われないかと思ったが……関係無かったな」
神学校の制服を着ているセレバーナの隣に立っているイヤナも同じ制服を着ている。
「春は忙しいから、猫の手も借りたいだろうからね。――どっちか一人しか女神になれなくて、私が女神になれなかったら、この村で暮らそうかな」
「私が女神になれなかったら、温かい地方の教会で静かに暮らすかな。そこの子供に勉強を教えながら」
「え?意外。王都で就職するかと思った。神学校に行った時も、こっそりヘッドハンティングされてたし」
「気付いていたのか。高給取りになるのも夢が有って良いが、病気持ちだから、無理をすると長生き出来ないだろうからな。のんびりと暮らすのも悪くない」
「そっか」
取り合えず、宿は明後日まで取った。
最果ての遺跡に問題無く入れて泊まらなかったとしても、少なくとも地域貢献にはなる。
活動資金は師から出ている物だから自分達は損しないし。
「では、丘に行くか」
「うん、行こう」
修業の場だった封印の丘に着いた二人は、改めてそこを見上げた。
魔王の封印はまだ生きているので人は入れないが、空を飛ぶ鳥は普通に上空を通り過ぎて行っている。
「朝食が済んだら出発すると言ってたが、まだ来ないか。ドラゴンと言えど、飛行スピードは常識の範囲内と言う事か」
「だねー」
「待つ事になるのなら、ピクニックシートを用意しておけば良かったかな」
腕を組み、足元に咲く名も知らぬ草を軽く蹴るセレバーナ。
草の絨毯に座っても良いが、朝露で濡れているので今は腰を下ろせない。
「昼過ぎになる様なら、私がシートと軽食を買って来るよ。マギが居るから近くに来たら分かるし」
「済まないが、そうして貰おうかな」
二人の少女は、村の子供達が遠くで遊んでいる声を聞きながら時が経つのを待った。