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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第九章
301/333

31

もう一度杖を振るセレバーナ。

大蛇の脳天に二発目の雷が落ち、身も凍る様な咆哮が周囲の建物の壁を微かに揺らす。


「蛇が吠えるとはな。やはり魔物か」


ツインテール少女は余裕そうな表情を作っているが、防寒用のタイツに包まれている足はジリジリと後退している。

修行を終えたばかりの魔力では魔物は倒せないとマギは言ったが、足止め程度なら何とかなると思っていた。

自分が生み出す雷は、普通の人間が食らったら気絶するくらいの威力は有るだろう。

心臓が弱い自分ならショック死するかも知れない。

なのに、大蛇の方も余裕そうに先割れている舌を出し入れしている。

まさかここまでダメージが通らないとは。


「止めて、セレバーナ!この子を刺激しないで!今は命令に従って私の言う事を聞いているけど、怒ったらきっと手が付けられなくなる!」


裏路地の脇に積もっている雪に尻餅を搗いていたクレアは、よろけながらながらも立ち上がった。


「だろうな。だが、人が魔物に喰われるのが分かっているんだから、絶対に無視は出来ない。大切な友人を殺人犯にしたくないしな」


セレバーナは大蛇と目を合せる。

爬虫類特有の無機質な視線は、一瞬たりともよそに向かなくなった。

完全に黒髪少女を敵と認識している。


「私らしくないと言うのなら、人を見捨てずに助けたらどうなるかの実験だと思ってくれて良い。とにかく、私は引かない。諦めない」


三度(みたび)杖を振ろうとした瞬間、大蛇が鎌首をもたげた。

効かないとは言え、さすがに戦闘態勢に入るか。


「むむ……」


運動能力に自信の無いセレバーナは、適当な一撃でも魔物の攻撃を避けられるとは思えない。

だが、転移魔法の準備には入らない。

ここで逃げるとクレアにも逃げられるし、事前の準備も無駄になる。


「ええい、ここが正念場だ。我ながらアホな作戦だが、他に手は無い。魔力が尽きるまで攻撃してやる。それそれ!」


セレバーナは杖を何度も振り、連続で雷を落とす。

魔力を溜めない連射なので威力は低めだが、派手な雷鳴で魔物を怯ませる事には成功している。


「止めて!セレバーナ!危ないから!本当に!」


雷に怯みながら叫ぶクレア。

魔物が恐ろしいのか涙声になっている。


「危ないのは分かっている!クレアが思い留まってくれるのならいつでも止めてやるぞ!」


大蛇のストレスが溜まっている様子が見て取れる。

だが黒髪少女は杖を振る手を止めない。


「私では大蛇を止める事は出来ないの!出来るのは、攻撃対象を指定する事だけ!」


「ならば、私も止める訳には行かない!」


「危ない!」


クレアが駆け出すと同時に物陰から赤髪少女が飛び出して来た。


「セレバーナ!」


イヤナの体当たりを食らったセレバーナは、間一髪で大蛇の噛み付きを避けた。

勢いが良かったので一瞬息が詰まったが、助かった。

そのまま二人で転がり、大蛇と距離を取る。

下が雪なので怪我は無い。


「……く」


さすがのセレバーナも、恐ろしさで立ち上がる事が出来なくなった。

大の大人でも一飲み出来そうな大蛇なので、身体の小さな少女なら飲み込まれてすぐなら転移魔法で何とか助かるかも知れない。

鋭い牙で噛まれない限りは。

頭でそう思っていても、怖い物は怖い。


「イヤナさん……凄い反射神経と思い切りの良さだわ」


クレアも黒髪の友人を助けようとしたが、全然間に合わなかった。

呆然と立ち尽くしている包帯少女の脇を擦り抜けた大蛇は、爬虫類らしい素早い動きで邪魔者に迫る。


「逃げるよ!」


「あ、ああ」


しかしセレバーナの反応が悪い。

頭ではなく直感で腰が抜けている事を見抜いたイヤナは、米俵を担ぐ様にして黒髪少女を肩に乗せる。


「よっこいしょお!」


「普通に逃げずに、距離を取る程度にしてくれ。クレアを放っておけない」


「分かってる!」


イヤナに担がれているセレバーナは、大蛇の目を狙って雷を撃った。

だが、焼け石に水と言った感じ。

生物として絶対に弱い部分を攻撃しても通じないか。

困ったな。


「好い加減にして!それ以上邪魔をするなら、私にも考えが有るわ!」


クレアは、横の動きで大蛇の攻撃を避けているイヤナとセレバーナを庇う位置で大蛇に背を向けた。

その行動で大蛇の動きが止まり、イヤナもどう言う事かと足を止める。


「女神に救われず、親にも見捨てられた私なんか生きている価値も無い。親より先に死ぬ事で親への復讐とする手も有るんだよ?」


「バカな事を考えるな!」


堪らずイヤナの肩から飛び降りるセレバーナ。

今のクレアは正気ではない。

マギの力を借りて待ち伏せていなかったら迷い無くとんでもない事を実行していただろうから、彼女は本気だ。

追い詰めたら、本当に取り返しの付かない事をしかねない。

魔法の杖を構えてみたものの、これ以上は刺激出来なくなったその時、鎧を着た大男が民家の屋根から飛び降りて来た。

そして、装備している盾で大蛇の横っ面をひっぱたいた。


「間に合った様ですな!意外と遠かったので、屋根の上を走ってショートカットしましたよ!」


巨大な蛇が人の力で吹っ飛ばされている様子を見たセレバーナが安堵の白い息を吐く。


「ふぅ……。遅いですよ、勇者様」

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