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苗植えが終わったのは夕方になってからだった。
少女達は一時的に解散し、身体に付いた土を落とした。
待ちに待った魔法の勉強がついに始まるので、キビキビと動いてリビングに集まる。
セレバーナはいつもの制服に、ペルルドールは可愛らしいピンクのワンピースに着替えている。
イヤナは着替える服が無いのでそのまま。
サコも着替えたが、ラフな見た目は全く変わっていない。
「全員揃っていますね。なら、すぐに始めましょうか」
二階から降りて来たシャーフーチが、少女達を自分の席に座らせた。
リビングの入り口を覆っていたカーテンはすでに取り払われていて、木の窓も開けっ放し。
その窓から夕日が差し込んでおり、リビングは真っ赤に染まっている。
「日暮れも近いですし、畑仕事でお疲れでしょうから、今日は基礎のお話だけをしましょう」
円卓の上座にシャーフーチが座り、正面に座っている少女達に向けて語る。
昼間とは違い、師匠は厳かな雰囲気に包まれている。
なので少女達の背筋が自然と伸びる。
「魔法には七つの属性が存在します」
世界。
生命。
時間。
空気。
地面。
光線。
汚穢。
「この七つの属性に従って、この世の中は形造られています」
シャーフーチは声のトーンを上げて言葉を続ける。
「世界魔法とは、心。自分以外の存在を知る事。自分の中の存在を知る事。知らない事を知る事」
胸に手を当てるシャーフーチ。
「生命魔法とは、生。産まれる事。生きる事。先へ進む事」
窓の外を指差すシャーフーチ。
「時間魔法とは、流。風の流れ。水の流れ。人の流れ」
弟子達全員を見渡すシャーフーチ。
「空気魔法とは、有。どこにでも存在する物。水に溶ける物。形の無い物」
両手を広げるシャーフーチ。
「地面魔法とは、萌。芽吹き。腐敗。力強さ」
円卓を軽く叩くシャーフーチ。
「光線魔法とは、光。太陽の熱。月の満ち欠け。星の瞬き」
ペルルドール、自分、セレバーナの順で指差すシャーフーチ。
「汚穢魔法とは、死。息を吸って吐く事。物を食べて排泄する事。生命の終わりを迎える事」
目を瞑るシャーフーチ。
「この七つは、混ざり合ったり、独立して存在したりしています。その理を読み、自分の意のままに操る。それが魔法を使うと言う事です」
「その七つは、曜日の元になっていますね」
セレバーナがそう言うと、サコが感心した風に手を打った。
「なるほど。だから一週間は七日なのか」
月火水木金土日、とゆっくり言うシャーフーチ。
「月曜日は世界。日曜日は光線。曜日に合った属性の魔法の効果が上がったりします」
時が進み、外が段々と薄暗くなって行く。
そこでシャーフーチが指を鳴らすと、風が吹いて木の窓が閉まった。
リビングが暗くなったが、すぐに暖炉の上に置いてある太いロウソクに火が付いた。
「水曜日に風魔法が強くなり、火曜日に火魔法が強くなる。この法則を忘れて魔法を使うと、窓が壊れたり、一瞬でロウソクが燃え尽きたりします」
「逆に、上手く使えば小さな火種でも生木に火が点けられる、と言う事ですね?」
そう言うセレバーナに頷くシャーフーチ。
「これらの法則を使う魔法の正式名称は『女神魔法』と言います」
「そんなに一杯魔法が有るんですか。じゃ、お師匠様の得意な魔法は何ですか?」
イヤナが訊く。
「全てです。それが魔法使いとして一人前になると言う事。ですが、それとは別に潜在能力と言う物が存在します」
「わたくしのアンロックですね」
ペルルドールは、自分の手に出来た血豆を見ながら言う。
それの違和感が気になって仕方が無い。
「はい。女神魔法が神の力なら、潜在能力は人の力。その人の才能です」
「潜在能力を持っていない人も居るんですか?」
シャーフーチは、首を横に振ってセレバーナに応える。
「生きている人間なら、必ず持っています。基本的には魔法ではなく、何かしらの技能と言う形で」
「じゃ、お師匠様の潜在能力は何ですか?」
「残念ながら、イヤナの質問には応えられません。秘密です。今回のお話にも関係有りませんしね。そう言う能力も有ると言う事だけ覚えておいてください」