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宿の一階の大部分を占める食堂で朝食を済ましたイヤナとセレバーナは、食後のお茶をお持ち帰りして宿の部屋に戻った。
そして意外と柔らかくて清潔だったベッドに腰を下ろし、落ち着いてから仕事を始める。
「さて。イヤナの使い魔に勇者の居場所を教えて貰う訳だが、魔力の状態はどうだ?」
「いつも通りだよ。バッチリ」
「では、マギに訊いてくれ。今日は勇者探し以外はしない予定だが、転移魔法数回分の魔力は残しておく様に。何が有るか分からないからな」
「分かった。――じゃ、マギ。勇者イリメント・コーヨコ様はどこに居る?」
倒れても良い姿勢でベッドに座り直したイヤナは、満を持して訊く。
すると赤髪の三つ編みに隠れていた妖精の様な姿をした使い魔が顔を出して主人に耳打ちした。
「ふむふむ。――勇者様はこの宿のライバル店に泊まっていて、今もそこに居るって」
「意外に動きが遅いな。冒険者は夜明けと共に動く物だと聞いていたが」
腕を組むセレバーナ。
勇者が向かっている方向や状況で何らかの情報を得ようと思っていたのだが、あてが外れた。
「まぁ良い。では、急いでライバル店とやらに行こう。立てるか?」
「うん、平気。毎日やっている魔力アップの修行が利いているのか、これくらいなら何の問題も無くなって来たよ」
今日も神学校の制服を着ているイヤナは、疲れやだるさも無く立ち上がる。
「そうか。頼もしいな。行くか」
防寒用のコートを羽織った二人の少女は、宿のカウンターでライバル店の位置を聞く。
「何だ、お向かいさんか。では出待ちするか」
今日の分の宿賃を払って部屋のキープをお願いしたセレバーナは、イヤナと共に外に出た。
日差しが暖かく、良い天気だ。
「この陽気では雪が解けるかも知れないな。道がぬかるむから、転ばない様に気を付けよう」
「うん。この制服、結構寒さを防ぐね」
「そうだろう?夏服も、外見に差異は無いが結構涼しいぞ」
「これ、貰えるのかな。気に入っちゃった」
「神学校の制服は個人の体格に合わせて作るから、他人に譲るのは難しい。つまり、それは君の物だ。――さて」
お向かいに有る宿の入り口に目をやるセレバーナ。
向こうの方がワンランク上らしく、鎧を身に纏っている冒険者だけでなく、上等なスーツを着ているビジネスマンも宿から出て来ている。
こちらの食堂が広いのは、どうやら向こうの客も受け入れているかららしい。
静かで高級な部屋が望みなら向こうに泊まり、階下が騒がしくても気にならないなら割安なこちらに泊まる、と言う住み分けをしている様だ。
適当に食堂が有る方を選んで泊まったのだが、向こうを選んでいたら宿の中で勇者と出会っていた可能性が有ったのか。
運が悪かった。