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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第九章
293/333

23

セレバーナとイヤナは、若者や聖職者の行き来が多い大通りを歩く。

図書館が有る通りとは違い、かなりの人出だ。


「日が沈む前に冒険者ギルドに行かなければならないから、少し早足になるぞ。勇者の行動パターンを知り、明日の予定を立てよう」


「マギに聞けば早いんじゃない?」


「魔力の消費が少ないのなら頼みたいが、場合によっては枯渇するだろう?いざという時に転移魔法が使えないと困るから、なるべく頼らない方向で行こう」


「転移魔法が無いと宿に行くのに時間が掛かってしょうがないから?」


この街は神学校を中心にした街なので、旅行者が学生に悪影響を与えない様に、宿屋や各種ギルドは学校から離れた位置に有る。

学校の近くに来賓用の宿は有るが、今回は勇者に会うのが目的だから、そちらでは逆に不便だ。

巡礼者用の安宿なら両方に対応出来る丁度良い位置に有るが、そこはザコ寝になる。

余程の事情が無い限り、女子供が利用する場所ではない。

総合的に考えれば、転移魔法の行使を前提にした普通の宿を取るしか選択肢が無かったと言う訳だ。


「それに、マギに頼っていたら父に会えなかっただろう。居ると知っていたら近寄らなかったからな。一般常識として、久しぶりの再会は喜ぶべきだ」


「変な言い方。――お父さん、嫌いなの?殺され掛けたから?」


「蟠りは有るが、嫌いではない。あの場でも言ったが、父と娘がいがみ合うのは愚かな事だ。私は彼を許している」


「本当に?だったら近寄らないなんて言わないんじゃない?」


「食い下がれても答えは変わらん。まぁ、確かに一緒に暮らすのは遠慮するがな。――私の気持ちを分かってくれとは言わん。父の都合も有るだろうし」


つまらなさそうに肩を竦めたセレバーナは、周囲の人達に金色の瞳を向けた。

神学校の為の街とは言え、それだけでは立ち行かないので、普通の商売人や勤め人も大勢居る。

普通の家庭を持って、普通の人生を送る、普通の人達が。

そんな人達が帰路に付いているので、商店や飲食店は大賑わいだ。

寮に入ったばかりの幼い頃はそんな人達を羨ましいと思った物だが、飛び級をした頃からその願いは消えた。

波乱万丈な人生は退屈しないから。

だから退屈になった神学校を飛び出して遺跡に行った訳だが、その判断は正解だった。


「勇者の動きの方が先決だから、話を戻そう。そう言う偶然の出会い、つまり『縁』みたいな物も、今は大事だ」


「どうして?」


「修行中、我々は等しく全員が死に掛けた。それは恐らく、世界自体が新しい女神を望んでいるかどうかを試したんだと思う」


「サコのお父さんがそんな事を言ってたね。望まれているのなら何をされても死なないって」


「うむ。情報と言う武器による言葉だから、正解でなくても、大きく間違ってはいないだろう」


「もしも私達が死んでたら、女神はいらないって世界に判断されてたの?このまま自然に消える事を世界が望んでいる、って事になってたの?」


「多分な。世界自体に意思が有るのかどうかは分からないが。もし意思が無かったら、今生きている人々が生き残りたいか、に変換しても良い」


「そっちの方が分かり易いかも」


サコの父親がサコを殺していたら、サコには女神の資格が無かった。

ペルルドールがヴァスッタで死んでいたら、ペルルドールには女神の資格が無かった。


「テレパシーの修行の時に私の意識が溶けて消えていたら、私には女神の資格が無かった。って事かな」


「私はアット・キーサンソン先生の手術が失敗していたら、もしくは病院に行かなかったら、になるんだろうな。父に殺され掛けたのは、多分違う」


「どうして?」


「ソレイユドールの時代から今の時代に変わった節目は、我々が遺跡に行ったその時だ。それが真実なら、それ以前の出来事はカウントされない」


「そこのところがまだ分からないんだよねぇ。五百年の歴史が一瞬で作られたって、どうやって?誰が?女神様はもう居ないのに」


「それが世界の意思、もしくは人々の生きたい気持ち、になるんだろうが……確証が無いんだよなぁ。納得出来る理屈が思い付かん」


空腹を刺激する良い匂いが少女達の鼻を擽る。

食べ物屋が多く立ち並ぶ通りに入った様だ。

香りや煙で客を誘う店は旅人や旅行者向けなので、冒険者ギルドは近い。


「もしもそこのところの謎が解明しなかったら、考えを改める必要が有るかもな。場合によっては、世界の形をすっかり替える必要が有るかも知れん」


「解明する為に女神の遺産探しをしてるんじゃないの?」


「だから、解明しなかった時だ。イヤナも考えておいてくれ。その場合は過去の女神の痕跡を一切無かった事にしなければならないから、一筋縄では行かない」


「それをすると過去の女神に関わっている人が消えるって話になってなかった?」


「私が女神になるなら、それは気にしない。冷たい方程式って奴だ。だが、イヤナはそれは嫌なんだろう?」


「うん」


「ならイヤナなりの世界の変え方を考えろと言いたいのだ。――それよりも、腹が減ったな」


「さっきから良い匂いばっかりしてるもんね。何か食べる?」


「そうだな。冒険者ギルドの正確な位置を訪ねながら何か抓むか」

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