表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第一章
29/333

29

遺跡の二階から庭の畑を見下ろしていたシャーフーチは、面倒臭そうに視線の向きを変えた。

すると、封印の丘を登って来ている人影が見えた。

ふたつの木箱を天秤棒に吊るしているサコだ。

追跡者は居ない。

だからそのまま何もせずに石の門を潜るのを見守る。


「ただいま」


「あ、おかえりなさい、サコ。早いね。まだお昼前だよ?」


イヤナは、玄関前で木箱を下しているサコに駆け寄る。


「宿屋が余所者で満室になったって話を聞いてね。キナ臭くなる前に上がらせて貰ったよ。それなのに、こんなに分けてくれて」


サコが指し示した木箱を覗くイヤナ。

様々な春野菜の苗と種類別に袋詰めされた種が入っている。


「ありがたいね。こっちの都合で突然休んだのに」


イヤナは瑞々しい苗を優しく撫でる。

感謝を込めて大切に育てなければ。


「ああ。恩を返さないとね」


言ってから顔を上げたサコは、二階の窓に向かって大声を出す。


「シャーフーチ!お耳に入れたい事が!」


「はい、なんでしょう?」


シャーフーチは、揺り椅子に座ったまま窓から顔を出す。


「村に居る余所者のリーダーはイリメント・コーヨコです!百人規模の冒険者がひとつのパーティとなって、明日明後日の内に攻めて来ますよ!」


「コーヨコ、ですか。この名前、みなさんはご存知ですか?」


「五百年前、魔王を倒した勇者の子孫です」


セレバーナが応える。


「知っていましたか。と言う事は、彼の血筋にも真実は残っていない、と言う事ですか」


「シャーフーチ。貴方は真実を知っているんですの?勇者の伝承は、どう真実ではないと仰るの?」


ペルルドールも二階に向かって大声を出す。


「真実なんて物は、知ってしまえば大した事ではないんですよ。重要なのは――」


シャーフーチは、そこで言葉を止める。

待っても待っても続きを言わない。


「何ですの!?続きを仰ってください!」


痺れを切らしたペルルドールが金切り声を出す。


「いえ。何て言ったら良いのか考えてみたのですが、止めました」


「止めました?止めたとはどう言う意味ですか!」


ペルルドールの声がどんどん高くなり、ガラス板を爪で擦っている音に近くなって来る。


「いやぁ、私もこの状況に慣れていないので、戸惑っているんですよ。どんな態度で貴女達と向き合えば良いか、とか」


「なら魔法のお勉強を!わたくしは野菜を育てる為にここに来た訳ではありません!!」


ペルルドールは怒りで全身を震わせながら叫ぶ。

喉が壊れそうな声量。


「シャーフーチ。私からもお願いします。このままではストレスでおかしくなってしまう」


私ではなく、ペルルドールが。

そう言う想いを込めた視線を送るセレバーナ。

シャーフーチも金髪美少女の限界が近い雰囲気を感じている。

少し早い気もするが、仕方がない。


「分かりました。村の仕事が出来ないのなら仕方有りません。頂いた苗を植え終わったら魔法の勉強を始めましょう」


「やったね、ペルルドール。魔法のお勉強をしてくださるって。私も嬉しいよ!」


「え、ええ……」


イヤナがペルルドールの肩を抱いて喜んだ。

ペルルドールは、曖昧な笑顔でそれに応える。

どっちにしろ畑仕事をしなければならないのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ