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「カルト教団、か。穂波恵吾の記憶が無かったら戸惑っていたな」
妙に量が多い黒髪をツインテールにしている少女は足を崩し、アグラを掻く。
広い談話室にはイヤナしか居ないが、下着が見えない様にスカートの股の部分に拳を突く。
「これも穂波恵吾の記憶から生まれたのかな。何だか面倒臭そうな概念だけど」
赤髪をおさげにしている少女は談話室の壁を観察しながら歩いている。
有名人の名言や季節の行事の日程表等が張り出されているので、見ていて飽きない。
以前のイヤナなら文字を読む事を面倒臭がっていただろうが、女神の本の知識を得た今はその面白さも理解出来ている。
「どうだろうな。負けた女神が産んだ歌詩魔法、精霊魔法がまだ残っていたから、そっち方面から女神魔法に反抗する文化が発生したのかも知れない」
「どう言う事?」
「女神達は世界神になる為のゲームをしていた。他の女神は、そのゲームの敵だった。そして、女神達はそれぞれが違う魔法を使っていた」
「ああ、そうか。女神魔法以外の魔法は、勝ち残った女神様の敵なのか」
「うむ。敗者の意識が女神の遺産として残っていたら、それに影響される人が居てもおかしくない。サコの父の様に」
魔法の師から女神魔法と教わったのでそう呼称しているが、セレバーナ達が使う魔法の正式名称は『意識魔法』だ。
心で思い浮かべた物を魔力と融合させ、現実の物とする魔法。
しかし『女神魔法』と言う呼称が一般的な為、あえて間違いを正す事はしていない。
「魔法とは、元々は新しい世界神の奇跡の方向性を決める物だった。そんな神の力を下界の人間に開放していたのは、勇者の助けになるからだ」
「消す予定の世界だったから、ただの人間が神の力を使っても気にしなかったんだね」
「だが、この世界は残された。ストーンマテリアルが負けた女神を殺さなかったから、ほかの女神の力も残ってしまった。――この結果をどう見るか」
「どうする?新しい世界から削除しておく?カルト教団は、どうにも厄介な存在みたいだし」
「なぜそう思う?」
「女神魔法に敵対する意識から絵画魔法や文字魔法みたいな滅んだ魔法が復活したら、その知識が無い人には対処出来ないんじゃない?」
「確かに。例えば権力に反抗する組織が失われた魔法を使ってテロを起こした場合、甚大な被害が容易に予想出来る」
アグラから横座りに姿勢を変えたツインテール少女は、腕を組んで考え込む。
「だが、思想の制限は文化の発展には邪魔になるだろう。文化の多種性は必要だ。私は残しておきたい」
「穂波恵吾の記憶にはデメリットしかないけど。って言うか、信仰が複数有る部分のイメージ悪過ぎ。争いの元になるなら、私は削除したいな」
「イヤナがハッキリと否定意見を言うのは珍しいな。何がそんなに気に食わないんだ?」
立ち止まったイヤナは、セレバーナに真剣な表情を向ける。
「私は文化とか発展とかは良く分からない。だけど、人が争うのは嫌だ。そうなるのが分かっている種を残したくはない」
「分からなくはないが、争いが進化を産む事も有るんだがな」
「セレバーナは未来に期待したいって感じなのかな。でも、現実は産まれと才能以上の結果は無いんだよ。運がとっても良くない限りは」
セレバーナの前で正座をするイヤナ。
神学校の制服を着慣れていないのでスカートの形が崩れている。
「私は運が良かった。何か凄そうな潜在能力を持って生まれて、お師匠様に呼ばれたから。だからこの一年、飢えとは無縁だった。遺跡に行って良かった」
イヤナは自分の腹を軽く叩く。
給食を食べた直後なので満腹だ。
「でも、私以外の村の人は餓死と隣合わせの一生なの。今もきっと飢えてる。何をどうやってもそれがずっと続くのが私の村の未来なの」
「それを改善したい、と」
「したい。明日の快適よりも今日の食事。飢える人が居ない世界。それが私の理想。――でも、争いはその理想を壊す。だからいらない」
「ふむ。言われてみれば、この学校で育った私は食事より読書を優先していた。飢える心配が無かったからな。それも歪んでいるか」
「歪みかどうかは分からない。でも、飢えの無い世界を作れるのならそうしたい。出来ないのなら、私が世界を守る意味が無い」
「そうだな。言いたい事は理解出来る。世界を見守る女神になるのなら、苦しんでいる人を救いたい。それは絶対に否定しない」
腕を組み直したセレバーナは、改めてイヤナを見る。
「しかし、いくら女神とは言え、この世に有る物を自分の好みで無かった事にするのは良くない……と、私は思う」
「なら、どうする?この言い合いを続けるとケンカ別れになると思うけど。これに限っては、私は絶対に妥協しないから」
「お互いに譲らない、譲れない、か。うーむ。やはり女神候補が複数居ると争いになるのかな」
「それも嫌だ。なんかダダをこねる子供みたいになってるけど、そんな事をする為に女神になる訳じゃないし」
早口で言うイヤナ。
前々から頭の中で反芻していたんだろう、舌が良く回っている。
「そこは私も同感だ。――そもそも女神なると言う事がどう言う事なのかも分かっていないのに議論してもなぁ」
セレバーナが珍しく言い淀む。
なのでイヤナが案を出す。
「じゃ、実際に見に行く?闇の牙に招待されているんだし。そこで何が原因でカルト教団が発生したのかを確認するの」
「それでも良いんだが、クレアが……。いや、何でもない。嫌われても良いか。興味も有るし、行ってみよう」
「どうして嫌われるの?」
「私達は魔王の真の姿と目的を知っている。だから、彼女が信じている物を容易に否定出来る。それは気分の悪い事だ」
「下手すれば今生の別れになるんでしょ?今までと同じで、信用されない事を覚悟して真実を話せば良い」
「件のカルト教団がどう言う物か分からない今の状態で真実を話したら、どう言う結果になるか想像も出来ない。かと言って黙秘を続けたら調査にならない」
「じゃ、ウソを言えばじゃない。女神が全てを見守っているって言う教え自体がウソなんだし」
「完全なメリットが有るなら言うが。嫌われたくないからウソを言うのは今の状況では違う」
「セレバーナって、変な所で潔癖だよね。ウソも方便って穂波恵吾の記憶にも有るじゃない」
立ち上がったイヤナは、スカートの皺を叩き伸ばした。
そして笑顔になり、自分の胸を叩いた。
「なら、私がウソを言うよ。必要だったらね」




