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「それはさておき。もうひとつの目的に取り掛かりましょうか。――クエストでここに来ている勇者様はどこにいらっしゃるのでしょうか」
制服の上着を羽織ったセレバーナは、ベッドから降りながら訊いた。
そして来賓用のスリッパを履く。
ベッドに腰掛けていたイヤナも立ち上がり、スリッパを鳴らして邪魔にならない位置に移動する。
「イリメント・コーヨコ様に何のご用事が?」
「神学校から出されたクエストが終わらずに彼がなかなか帰らないから、魔法ギルドの調べ物が進まないのです。なので私達が様子を伺いに来た訳です」
「そうですか。結論から言いますと、ここで待っていても彼には会えません。神学校に関係無い者が出入りしていたら生徒が動揺しますから」
ユキ先生はベッドを囲う白いカーテンを完全に開け、保健室の中心付近に有る安っぽいソファーを示す。
その近くで石炭ストーブが赤々と燃えているので、温かいそちらに移動しろと言う事の様だ。
「しかし神学校からの依頼で動いていらっしゃるので、定期的に担当の者と会う形になっています。それに同行すれば会えますが、許可はされないでしょうね」
「では、神学校の外に出て彼を探さないといけない訳ですか。彼は今どこに?」
セレバーナが移動しながら聴く。
イヤナは早足で隣のベッドに行き、自分の上着を取ってからソファーに座った。
「本当なら外部の人には言えない事件なのですが、セレバーナさんになら良いでしょう。イヤナさんも、他言無用でお願いします」
ユキ先生は、棚からコーヒーセットを取り出しながら念を押す。
「十年一日である神学校でどんな事件が起こったんですか?魔法ギルドからの書類によると、障害事件との事でしたが」
「その通りです。ある貴族の御息女の片目が潰されたのです。親御様の意向で警察に通報出来なかったので、勇者様に解決をお願いしたのです」
「やはり内々で済ませるつもりでしたか。問題は、なぜ警察に知らせず、勇者様を頼ったのか?ですが」
ストーブに乗せられているヤカンのお湯でコーヒーを入れているユキ先生に「魔物ですか?」と訊くセレバーナ。
「私は被害者の担任ですが、当事者ではないので、簡単な事情程度しか知りません。私から言える事は無いでしょう」
角砂糖の数を聞いて来るユキ先生。
セレバーナは二個。
コーヒーに馴染みの無いイヤナは、セレバーナの勧めも有って三個。
「ですので、勇者様の居場所を探りたいのなら被害者に話を聞けば近道になると思います。――被害者の名は、クレア・エスカリーナです」
「クレアが!?」
珍しく声を荒げ、顔色を変えるセレバーナ。
だからユキ先生は勿体ぶっていたのか。
「誰?知り合い?」
イヤナが訊くと、セレバーナは深刻そうな表情で頷いた。
「この学校で唯一の、私の友達だ」




