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光取りの窓すら無い隠し小部屋に入ったユキ先生は、ランプの光で周囲を照らした。
入り口ドア以外の全てが本棚で埋まっている。
「これですね」
注意深く無数の本を見渡したユキ先生は、高さの揃った百科事典を指差した。
分厚くて重いので、ランプを一旦脇に置き、一冊一冊慎重に床に積んで行く。
六冊ほど抜くと、その向こうに鍵の付いた小窓が現れた。
ポケットから真鍮製の大きなカギを取り出したユキ先生は、恭しくそこを開ける。
中には一冊の本が安置されていた。
「これが『女神の本』ですね」
先程の百科事典と大きさはほぼ同じだが、厚さは半分ほど。
暗いので、刻まれた時を窺い知る事は出来ない。
「持ち出し禁止の禁書なので、ここで読んで貰えますか?」
「いえ、読むのが目的ではありません。触るのが目的です。何が書いて有るのかは興味が有りますが、それは事が済んでからです」
小部屋の前で待っているセレバーナが言う。
本来なら立ち入り禁止の場所だし、そもそも狭いので三人も入ったら身動きが取れなくなる。
「そうですか。では、ここに置きますね」
積んだ百科事典の上にハンカチを敷いたユキ先生は、そこに女神の本を置いた。
ここで腰を落ち着かせるのを嫌がっているのか、椅子やテーブルが置かれていない。
なのでそうするしかない。
「『女神の本』は誰でも持ち運ぶ事が出来るんですね」
その様子を眺めながら腕を組む、と見せ掛けて自身の肘を撫でるセレバーナ。
この一年、遠慮無く腕を組んで来たので、そのクセを我慢するのが難しくなっている様だ。
イヤナは(別に組んでも良いのに)と思っている。
ユキ先生はその失礼を怒ったりしない人だろうし。
「普通の人には持つ事が出来ない物も有るのですか?」
「はい。『女神の剣』はイヤナにしか持てませんでした。正確には『その潜在能力を持っている人間のみ持てる』と言った感じですね」
「そうなんですか……。潜在能力とは、魔法ギルド特有の教えですよね。人が本来持っている才能……でしたか。セレバーナさんの潜在能力は何ですか?」
「魔法の師が仰るには、真実の目、だそうです。自分では実感は有りませんけどね」
「セレバーナさんらしい才能ですね。――さて、準備は整いました。どうぞ」
小部屋から出て少女達に場を譲るユキ先生。
「失礼します。――では、イヤナ。例のごとく、同時に触るぞ」
古い木の床に膝を突いたセレバーナが言う。
イヤナも膝を突いて頷く。
「うん。せーの、1、2、3」
二人の少女が同時に本の表紙に手を置く。
「う……」
二人の少女が同時によろめいたので、ユキ先生は慌てて少女達の身体に手を添えて支えた。




