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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
268/333

31

「もう目を開けて良いぞ。ここが魔法ギルドだ」


セレバーナと手を繋いでいたイヤナは、ゆっくりと瞼を開いた。

そこは狭くて暗い部屋の中だった。

のし棒の様な形の魔法の杖が放つ雷光に照らされている壁は、天然の岩みたいな雰囲気だった。


「転移魔法を使った後にすぐ明かりの魔法を使っても大丈夫なの?」


イヤナは魔法ギルドに来た事がなかったので、座標を覚えているセレバーナに連れて来て貰った。

通院で長距離の転移に慣れているセレバーナの転移魔法は、師の転移と同じくらい安定していた。

安定した魔法はそれだけ集中力を使ったと言う事なので、身体への負担が心配だ。


「真っ暗だから使わない訳には行かん。徒歩一分程度の短い洞窟だから問題無い」


「私が明かりを点けようか?」


「マギに質問するかも知れないから、イヤナは魔力を温存しておいて欲しい」


北の洞窟に行った時と同じコートを着ているツインテール少女とおさげ少女が、岩をくりぬいた様な洞窟を進む。

セレバーナが言った通り、すぐに高級そうな絨毯が敷かれた部屋に出た。

そこでは見事なプロポーションを自慢しているかの様なスーツを着ている金髪女性が待っていた。


「お待ちしておりました。ようこそ、魔法ギルドへ」


魔法ギルド長第一秘書のティセは、大きな秘書机から立ち上がって出迎えてくれた。


「突然の申し出を快くお受けして頂き、ありがとうございます。――シャーフーチの姿が見えませんが」


礼儀正しく頭を下げたセレバーナが訊くと、秘書さんはさりげなく机の上のボタンを押した。

しかし音は鳴らないし、何も動かない。


「ドラゴンのお世話で手が離せないそうですが、お弟子さん達が到着したと知らせれば、すぐにいらっしゃいます」


「そうですか。大変そうなので、無理においで頂かなくても構いませんけどね」


「やぁ、来たね」


奥の扉が開き、全身真っ白な少年が現れた。

魔法使いギルド長、テイタートット。

さっきのボタンは彼を呼ぶ為の物だった様だ。

こうして並ぶとセレバーナより少しだけ背が高い。


「ここに保管されている女神の遺産を触りたいとの事だが、多分全部が勇者装備だと思う。それでも良いのかな?」


「はい、構いません」


「なら好きにすると良いよ。――北の地に行った二日後にそんな事までするなんて、頑張ってるね」


呆れた風に苦笑したテイタートットは、白い服のポケットから古めかしい鍵を取り出した。


「これが展示室のマスターキーだ。僕は仕事が山積みだから付き合えないけど、構わないかな?」


その鍵は近くに立っていたイヤナが受け取った。


「はい。気絶対策はシャーフーチにアイデアを出して頂きましたので、恐らく大丈夫かと」


「へぇ、どんなのだい?」


「簡単な事です。一気に記憶を吸収しようとせず、ゆっくりと取り込めば良いんです」


「あはは、なるほど。君達のせっかちさがアダになっていた訳だね」


黒い瞳を細めて笑むギルド長。

セレバーナは、そんな彼に向かって肩を竦めて見せる。


「穂波恵吾のカードは力強く流れ込んで来たので抵抗出来ませんでしたけどね。しかし、勇者装備の記憶を見るくらいなら加減出来るでしょう」


「そう。じゃ、頑張ってね。僕等の方でも世界が消えない様に抵抗してるから、二人で全部を背負うつもりにならなくても良いからね」


「はい。では、行って来ます。ティセさん、お願いします」


「参りましょう」


セレバーナとイヤナは、金髪美女と共に秘書室を後にした。

青白い火のランプに照らされている狭い廊下を進み、間も無く博物館の様な空間に到着する。


「おおー、凄いアイテムばっかり有るね――あ、声が響く。この中に勇者装備が有るんですか?」


こう言う施設に来た事が無いのだろう、テンションが上がっているイヤナは感じたままを口に出している。


「この展示室に有る全てが伝説の魔法具なんですが、どれが女神の意思が籠った物かは見当も付いていません」


一人前になった今では、無数のガラスケースに入って展示されている武具や宝石の魔力を感じる事が出来る。

どれもこれも物凄い存在感だ。


「そうですか。――イヤナ。全てを調べていては体力も時間も持たないから、それらしい物から調べて行こうか」


セレバーナの言葉に頷くイヤナ。


「私はあの杖が気になるな。なんか、マギに似た雰囲気を感じる。知識が詰まってそう」


「そう言った直感も大事だな。そう言う意味では、私はこのローブだ。取り敢えず、候補を上げてみようか」


「うん」


二人の少女が選んだ魔法具はみっつ。

それらが収められているガラスケースに張られている名前を読む。


『フェイの杖』

先っぽがハテナマークみたいに曲がっている二メートル程の木の杖。


『贖罪のローブ』

ローブと言うより、少女達が着ているコートの様な仕立ての赤黒い外套。


『暁の輝き』

その名の通り、朝焼けの様な色の大きな宝石。


「まず杖から行ってみるか。宝石には呪いや不幸と言った逸話が残っている物だから、暁の輝きは最後に取って置こう」


「そうだね」


マスターキーを持っているイヤナが杖が収められている細長いガラスケースを開けた。

中に篭っていた古い木の臭いが少女達の身体を撫でて行く。


「万が一気絶した場合、彼等に医務室まで運んで貰います」


ティセが秘書室に通じているドアに視線を向けた。

それの両脇を守る二人の警備員が無言で会釈する。


「魔法使いギルドは人手不足なので、気絶している人を運べるのは彼らしか居ないんです。ですので、男性に触れられたくないのなら、どうか気を付けてください」


「服や貴重品を取られないのなら細かい事は気にしません。では、イヤナ。同時に触るぞ」


「うん。ゆっくりと知識に触れる、だよね」


「そうだ。行くぞ」


杖を握る二人の少女。

しかし身体や精神に変化は無い。


「……ふむ。これの持ち主は占い師だな」


「今はもう無い国の人で、その国の勇者に女神の意思を伝える仕事をしてたんだね。だから女神の気配が有った」


「持ち主は確かに女神の従事者だが、この世界の人間だな。勇者ではない。アレだ。女神の世話をしていたメイドみたいな物だ」


「あー、なるほど。じゃ、これはハズレって事で良いかな」


「ハズレだな。情報らしい情報は残ってなかった。次に行こうか。贖罪のローブだ」


「えっと、コレか。確かに色んな人の想いが籠ってる感じがするね」


イヤナが幅広なガラスケースを開けると、静かな展示室に少女の声が響き渡った。


「何をコソコソなさっていますの?」


「きゃあ!」


直後、大理石の床に手を叩き付ける音。

突然の物音に驚いたイヤナ達がそちらを見てみると、中庭へ続く方の入り口で二人の少女が折り重なる様に倒れていた。

そして、それを冷たい視線で見下ろしている金髪の少女。


「チカ・モアさん。リエゾン・リミレースさん。貴女達がここに居るなんて珍しいですわね。どうしたんですの?」


「えっと、珍しい気配を感じたので来てみたら、アレ……」


倒れている少女が指差す方には、ツインテール少女とおさげ少女。

そして秘書の三人が入り口付近で起こった小さな騒ぎをじっと見詰めていた。


「あら?貴女はセレバーナさんと、ええと、イヤナ?さん。またお会いしましたわね」


寒風にたなびく金髪を手で払いながら偉そうに言ったのは、北の洞窟で出会ったエリザエルザだった。

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