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妙に量の多い黒髪をツインテールにしている頭を礼儀正しく下げたセレバーナは、おもむろにベッドに歩み寄った。
そして剣を包んでいた布を剥ぎ取る。
「それが女神の遺産ですか。ふむふむ」
メガネを指で押し上げたブランナーは、興味津々に前のめりになる。
神話の時代に作られた物だが、その刀身は新品同然の輝きをたたえている。
「千本枝の魔法樹に似た存在感が有りますね。やはり同じ存在なんでしょうか。興味深いです」
「あの樹も女神の遺産なんですか?」
初耳の事実に驚くセレバーナ。
魔法ギルドもパワースポットなのだから、遺産が有っても不思議ではないが。
「仮説ですけどね。立証されていません。自身の枝を数多くの魔法使いに分け与えていますが、女神の意思を感じた者は一人も居ませんから」
「なるほど。確かに、私もそんな気配は感じませんでしたね」
アレが遺産だとすると、そこの女神はウッドマテリアルになる。
しかしウッドマテリアルは存在しないはずだ。
なぜなら、世界神は世界樹を育てるのが仕事だから。
もしもウッドマテリアルが女神候補の一人だったら、その存在自体がアドバンテージになる。
ゲームをするには不公平だろう。
「今回の事で改めて調査したみたいですが、結果は出なかった様ですね」
「ふむ……ギルド長様はウッドマテリアルが居ない事をご存じないのか」
腕を組んで思考しようとしたセレバーナは、しかし思い留まる。
ギルドの人にわざわざ来て頂いているのだから、まずは目的を果たさなければ。
「まぁ、結果が出ていないのなら、我々は何も出来ませんね」
「そうですね」
「では、剣の記憶を見てみます。イヤナ以外には持ち上げる事が難しい品ですが、持つ資格が有る者なら持ち去れる様です」
「お任せください。剣は重いそうですが、私は枝取りで色んな人を転移させていますので、剣としての常識の範囲内なら問題無く動かせます」
ブランナーは腰に手を当て、自信が有ると言わんばかりに胸を張る。
「我々が気絶したら火の始末をお願いします。風邪を引かない様に、掛け布団も」
「承知しています」
「では、イヤナ。剣を良い所に」
「うん」
剣をベッドの中心に置き直し、川の字で横になる二人の少女。
そして数を数えて呼吸を揃え、同時に剣の柄に触れる。
「……」
ブランナーは生唾を飲み込み、成り行きを見守る。
しかし少女二人は何事もなかったかの様に起き上がった。
「すみません、ブランナーさん。気絶はしなかった様です」
「あら。女神の遺産ではなかったんですか?」
「いえ、間違い無く女神の遺産でした。ただ……。いえ、我が師かギルド長様にしか話せない内容ですね」
ベッドから降りたセレバーナは深く頭を下げる。
「折角来て頂いたのですが、何も起こらず申し訳有りませんでした。以上です」
「あ、いえいえ。気絶している二人を見なくて良かったです。一応、ヒマ潰しも用意していたんですが」
ブランナーは、懐から文庫本を出して照れ笑いした。
そうしてから確認する様に訊く。
「何も起こらなかったのなら、私は帰っても良いのかな?」
「はい。シャーフーチには、来れたら来てください程度の重要性でした、とお伝えください」
「分かりました。――それでですね。ペルルドール様はいらっしゃらないんですか?」
期待の籠った視線で広いホテルの部屋を見渡すブランナー。
しかし目的の人物は影も形も無い。
「修行を終えた彼女は王城に帰りました。女神にならない、と言う選択をして。これからの彼女は帝王学に忙しいんじゃないでしょうか」
「あー……そうですか。ギルドにも、弟子としては来ないんですね。直接お話し出来ると思ったのに残念です。じゃ、私は帰りますね。お疲れさまでしたー」
ここの様な高級ホテルには、転移魔法等での侵入者が無い様に、王城と同じレベルの魔防処理が施されている。
だからブランナーは歩いてホテルから出て行った。
その背中が妙に寂しそうだった。
「……もしかして、アリス装備とやらを用意していたのかな。まぁ、ここにペルルドールが居たとしても、それを着る意味は無いが」




