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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
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266/333

29

妙に量の多い黒髪をツインテールにしている頭を礼儀正しく下げたセレバーナは、おもむろにベッドに歩み寄った。

そして剣を包んでいた布を剥ぎ取る。


「それが女神の遺産ですか。ふむふむ」


メガネを指で押し上げたブランナーは、興味津々に前のめりになる。

神話の時代に作られた物だが、その刀身は新品同然の輝きをたたえている。


「千本枝の魔法樹に似た存在感が有りますね。やはり同じ存在なんでしょうか。興味深いです」


「あの樹も女神の遺産なんですか?」


初耳の事実に驚くセレバーナ。

魔法ギルドもパワースポットなのだから、遺産が有っても不思議ではないが。


「仮説ですけどね。立証されていません。自身の枝を数多くの魔法使いに分け与えていますが、女神の意思を感じた者は一人も居ませんから」


「なるほど。確かに、私もそんな気配は感じませんでしたね」


アレが遺産だとすると、そこの女神はウッドマテリアルになる。

しかしウッドマテリアルは存在しないはずだ。

なぜなら、世界神は世界樹を育てるのが仕事だから。

もしもウッドマテリアルが女神候補の一人だったら、その存在自体がアドバンテージになる。

ゲームをするには不公平だろう。


「今回の事で改めて調査したみたいですが、結果は出なかった様ですね」


「ふむ……ギルド長様はウッドマテリアルが居ない事をご存じないのか」


腕を組んで思考しようとしたセレバーナは、しかし思い留まる。

ギルドの人にわざわざ来て頂いているのだから、まずは目的を果たさなければ。


「まぁ、結果が出ていないのなら、我々は何も出来ませんね」


「そうですね」


「では、剣の記憶を見てみます。イヤナ以外には持ち上げる事が難しい品ですが、持つ資格が有る者なら持ち去れる様です」


「お任せください。剣は重いそうですが、私は枝取りで色んな人を転移させていますので、剣としての常識の範囲内なら問題無く動かせます」


ブランナーは腰に手を当て、自信が有ると言わんばかりに胸を張る。


「我々が気絶したら火の始末をお願いします。風邪を引かない様に、掛け布団も」


「承知しています」


「では、イヤナ。剣を良い所に」


「うん」


剣をベッドの中心に置き直し、川の字で横になる二人の少女。

そして数を数えて呼吸を揃え、同時に剣の柄に触れる。


「……」


ブランナーは生唾を飲み込み、成り行きを見守る。

しかし少女二人は何事もなかったかの様に起き上がった。


「すみません、ブランナーさん。気絶はしなかった様です」


「あら。女神の遺産ではなかったんですか?」


「いえ、間違い無く女神の遺産でした。ただ……。いえ、我が師かギルド長様にしか話せない内容ですね」


ベッドから降りたセレバーナは深く頭を下げる。


「折角来て頂いたのですが、何も起こらず申し訳有りませんでした。以上です」


「あ、いえいえ。気絶している二人を見なくて良かったです。一応、ヒマ潰しも用意していたんですが」


ブランナーは、懐から文庫本を出して照れ笑いした。

そうしてから確認する様に訊く。


「何も起こらなかったのなら、私は帰っても良いのかな?」


「はい。シャーフーチには、来れたら来てください程度の重要性でした、とお伝えください」


「分かりました。――それでですね。ペルルドール様はいらっしゃらないんですか?」


期待の籠った視線で広いホテルの部屋を見渡すブランナー。

しかし目的の人物は影も形も無い。


「修行を終えた彼女は王城に帰りました。女神にならない、と言う選択をして。これからの彼女は帝王学に忙しいんじゃないでしょうか」


「あー……そうですか。ギルドにも、弟子としては来ないんですね。直接お話し出来ると思ったのに残念です。じゃ、私は帰りますね。お疲れさまでしたー」


ここの様な高級ホテルには、転移魔法等での侵入者が無い様に、王城と同じレベルの魔防処理が施されている。

だからブランナーは歩いてホテルから出て行った。

その背中が妙に寂しそうだった。


「……もしかして、アリス装備とやらを用意していたのかな。まぁ、ここにペルルドールが居たとしても、それを着る意味は無いが」

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