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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第一章
26/333

26

遺跡に帰った直後は夕飯の支度で全員が忙しい。

なので、ペルルドールが買った箱詰めの饅頭は食事が終わって全員が一服しようとしたその時を狙って円卓に置かれた。


「実は、村で怪しい人に出会いましたの。その方は五百年前の悪夢の再来だと仰いました」


ペルルドールが話を切り出す。

自分が騒動の中心らしいので、責任を持って知り得た事を伝える。

シャーフーチは最果て饅頭を食べながら金髪美少女の話を聞いている。

イヤナは一人キッチンに行き、お湯を沸かしている。


「――と言う訳で、近い内に大規模な勇者様パーティがここに押し寄せて来るかも知れません」


ペルルドールは、思い詰めた表情で仲間達を見渡した。

他の少女達は師匠の出方を窺っている。

湯気立つヤカンを持ってリビングに戻って来たイヤナも師匠に視線を送る。


「そうなったら、わたくし達はどうなりますか?シャーフーチ」


「どうにもなりません」


シャーフーチは涼しい顔で応える。


「勇者様がここにいらしたら、どうなさるおつもりですの?」


「どうにも出来ませんし、どうにかするつもりも有りません」


「なら、わたくし達はどうすれば良いのですか!?」


「待ちたまえ、ペルルドール。二人でどうどう言っていては、馬でも落ち着かない」


セレバーナが意味不明な冗談を冷静に言う。


「貴女も誘拐された事になっていますのよ?セレバーナ」


「先生やクラスメイトに封印の丘に行くと言って学園を後にしたからな。その話が外に漏れ、王女誘拐の噂に尾ひれを付けてしまったのだろう」


噂とは不特定多数の無責任な人間を介する伝言ゲームだからな、と言ったセレバーナが白湯を啜る。

茶葉を買う余裕は無い。


「噂に事実は要らない。話が面白ければ、それで良い。夕食時の話のツマ程度の価値が有れば、一気に広まる」


「どう言う事ですの?」


「噂が発生してしまったら人の力では抑えられない、と言う事だよ、ペルルドール。勇者がここに来る事は避けられない。そうですね?シャーフーチ」


「そうです」


シャーフーチも白湯を啜る。

その暢気(のんき)な姿を見た金髪美少女の額に青筋が浮かぶ。


「ですから、勇者様が来たらどうなさるのかと……」


「話が堂々巡りになるな。どうどう言ってもシャーフーチは動きそうもない。話の視点を変えた方が良さそうだ」


セレバーナが二個目の饅頭に手を伸ばす。

師への期待を諦める溜息を吐いたペルルドールは、やっと一個目の饅頭に手を伸ばす。


「そうですわね。では、セレバーナに質問をします。貴女、天才と称されていますわよね?マイチドゥーサ神学校ではどの様な地位でしたの?」


「地位、とはどう言う意味だ?私は神官の資格を持っているが、それは就職に有利になるだけで学校とは無関係だ。私は学生の一人だった」


「わたくしは学校の事を良く知りませんから表現方法が分かりませんが、例えば、身分な様な物です」


「ふむ。察するに、経歴、で良いのかな?」


ペルルドールが頷く。


「幼等部の六年間、全て主席だった。なので、中等部を飛び級して高等部に入学」


セレバーナは、過去を思い出しながら淡々と述べる。


「高等部の単位を一年で全て取得。大学へは飛び級出来ないので、やる事が無くなった」


「すご……」


サコが目を剥く。

開いた口が塞がらない。


「凄いの?私も学校に行った事が無いから分からない」


キョトン顔のイヤナにも分かる様に、サコなりの解釈で説明する。


「駆けっこで例えるなら、人間離れした足の速さでぶっちぎりの一位になって、他の人の半分の時間でゴールする様な物だよ」


理解したイヤナとペルルドールが頷く。

それを確認したセレバーナが語りを再開させる。


「授業に参加出来なくなってヒマだった私の元に来たのが、魔法使いの弟子入り勧誘の手紙だった。だから私はきちんと中退の手続きをしてからここに来た。のだが」


もしもこの弟子入りが無かったとしても、セレバーナとペルルドールは将来出会っていただろう。

国の宝と成り得る才能を持った者が王家に謁見する事は良く有る事だ。

「分かりました」と頷いたペルルドールが話を続ける。


「王女と同列で語られる程の天才なら、中退が認められていないのでは?」


「む?……可能性は、有るな。新生活に向けての準備で頭がいっぱいだったから、学校への手続きがおざなりになっていたかも知れない」


「となると、噂の出所は、王家と」


「学校、か。もしそうなら、噂を流した目的は私達を連れ戻す事になるな」


「はい。希有な才能を持った者を最果ての地で腐らせるのは勿体無い。だから連れ戻そう。――と、神学校が考えるのは当然だと思います」


「有り得る。ペルルドールは許可を得てここに来たのか?」


「まさか。封印の丘に行きたい等と口にしたら、熱が冷めるまで王宮の塔に幽閉されますわ」


「お忍びですか。その割には護衛が大勢居ましたが」


シャーフーチが話に割り込んで来る。


「爺が……、協力して、くれて……」


ペルルドールは、悲しみの籠った表情で俯く。

老紳士の事を思い出すとホームシックになりそうだ。

セレバーナが空気を読んで話を戻す。


「シャーフーチ。今回の騒動は私とペルルドールが原因の様です。王家から出た正式な魔王盗伐クエストなら、巨額の賞金も出ているでしょう」


「そうですねぇ……」


シャーフーチは、つまらなさそうに饅頭を頬張る。

面倒が次から次へと。

嫌になる。


「熟練冒険者の団体様が出張って来る事は想像に難くない。何も手を打たない訳には行かないと思いますが?」


セレバーナも師にお伺いを立てる。


「熟練冒険者だけなら問題は無いんですけどねぇ。うーん……」


シャーフーチは仕方なく対策を練る。

食い扶持を稼がせなければならない大切な時期だが、だからと言って適当に放置する訳にも行かないだろう。

弟子達は全員が女の子なのだから。


「分かりました。しばらくの間、貴女達には外出を控えて貰いましょう」


考えた結果の言葉がそれだった。

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