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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
258/333

21

光るキノコが等間隔で生えている廊下を奥へ奥へと進むドワーフの集団。

数十人もの集団に囲まれているイヤナとセレバーナは、少々不安を抱きながら流れに従う。

相手は子供の様な体格だが、髭面なので完全に大人だ。

そんな集団に囲まれて怖がらない女など、サコかプロンヤくらいしか居ない。


「ああ、そうだ。まだお名前を伺っていませんでしたね。私はユゴント国の巫女、ドドコです」


ドドコと名乗ったローブの女性が歩きながら頭を下げる。


「イヤナです」


「セレバーナ・ブルーライトです」


横に並んで歩いている二人の少女も頭を下げる。

セレバーナの苗字を聞いても誰も反応しない。

はやりここは異国、つまりストーンマテリアル以外の女神が作った外国なのだ。

南のヴァスッタと同じ様に。

エルヴィナーサ王国に全て吸収されたと言う歴史に反して残っている外国には、きっと何か意味が有るんだろう。


「到着です。一旦ここで立ち止まりください」


小さいおじさん達に緊張しながらも辿り着いた場所は、ちょっとしたスポーツが出来そうな空間だった。

天井が有るので地下なのだが、そうするとかなり深い所に有る。


「真冬なのに花が咲き乱れてる。不思議」


イヤナが驚いた声を出す。

地下の空間なのに、視界一杯に白い花が咲いている。

壁や天井に生えている光るキノコに照らされ、まるで昼間の雪原の様に輝いている。


「凄いな。こんな場所なのに群生している。あの薬草が花を着けるとは知らなかった」


セレバーナも感嘆の声を洩らす。


「地上付近の洞窟に生えている物をご覧になられたんですね。あれは、これが外でも育てられるのかと実験した残りカスです」


空間の入り口を背にした巫女が説明する。


「我々の先祖は地下から出たいと願っていました。この植物は我々の命綱ですから、我々の先祖がここ以外でも育てられないかと試したのです」


集団をこの場に残し、巫女と若い男、そしてイヤナとセレバーナの四人が薬草畑に侵入する。

蜘蛛の巣の様に張り巡らされた畝の間を歩く。


「何度も試行錯誤して行った実験の結果、この植物、サムサロは、ここでしか育てられない事が分かりました。ここ以外では花が咲かないのです」


「サムサロが薬草の本当の名前ですか。サムサロは、花が咲いている状態が本来の姿なのですか?」


セレバーナが訊くと、巫女が頷いた。


「はい。味や栄養に雲泥の差が有ります」


「さっき頂いたけど、確かに美味しかったよ。ちゃんとした調味料が有れば、結構良い線行きそう」


そう言ったイヤナに視線を向けたセレバーナは、頷いてから白い花に目を落とした。


「では、ここに有る物は上の物より薬効が有るのですか?」


「薬にしたいのなら、花弁の部分を使わないと効果が有りません。葉の部分はただの食用です。ただ……」


ドドコも歩きながら白い花に目を落とす。


「花が咲かない上のサムサロは、ここの物より寿命が長いのです。ですので、薬効自体は失われていないと思われています」


「なるほど。自身の薬効が影響して寿命が延びている可能性が有る、と」


「はい。まぁ、花が咲かないから、とも考える事が出来ますが」


「しかし、王家の姉姫に効果が有るからこそ、定期的に薬草摘みのクエストが王家から発注されています。私は薬効は有ると思いますね」


巫女は足を止め、振り向く。


「お詳しいですね。もしや、貴女は王国の妹姫ですか?」


「いえ。妹姫は我等と共に修行した仲間です。なので、つい馴れ馴れしく言ってしまっただけです」


「毎年この時期に王家の人がサムサロを取りに来ている事は知っています。確かに、それは外でも薬効が有ると言う証拠になりますね」


少し考えたドドコは、改めてセレバーナを見る。


「セレバーナさんは、上のサムサロにはどれくらいの薬効が有ると思われますか?」


「姉姫の病気が良くなっていると言う情報は有りません。それを現状維持と見るなら薬効は微量かも知れません」


腕を組むセレバーナ。


「悪化を防いでいると見ればそれなりの薬効が有ると言えるでしょう。詳しい情報が無いこの場では、何とも」


「そう、ですか」


残念そうに俯く巫女に金の瞳を向ける黒髪少女。


「それは大切な事なんですか?」


「ええ。我々はこの洞窟の外に出たい。そして太陽の下でこのサムサロ以外の物を食べたいのです」


「そのお気持ち、良く分かります」


神学校を飛び級し、若くして大学まで行った天才であるセレバーナは、やる事が無くなったのでそこを出て魔法使いの弟子となった。

もしも神学校を出る事が叶わなかったら、その才能を持てあましてヒマな日々を送っていた事だろう。

外の世界に飛び出したいと悶々と願い、何も出来ずに青春を浪費していただろう。

なので、彼女が言う望みには共感出来る。


「しかし、反対派も居る。それが入り口に居る者達です」


イヤナとセレバーナは振り向き、入り口を見る。

背が低いが髭面の男達がこちらを見ている。


「保守派、ですか。故郷と伝統を捨てて別天地に行く事は冒険です。賭けと言っても良い。そんな行動を無謀と思うのもまた道理です」


無表情で言うセレバーナに冷静に頷く巫女。


「それでも外に出たいと願う気持ちは絶対に消えません。これからお二人に見て頂く物が、外に出たい理由です」


歩みを再開させるドドコ。

イヤナとセレバーナは、巫女の言葉を聞きながら後を追った。

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