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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
256/333

19

突然の立ちくらみに襲われたイヤナは、額を押さえて一歩よろめいた。

ほんの一瞬だけ気絶していた様だ。


「ん……?あれ?」


目を開けると、明るい部屋の中に居た。

しかもほんのり温かい。

さっきまで寒くて暗い洞窟に居たのに、これは一体どう言う事だ。


「おお!女神の歌に応える人が本当に現れたぞ!」


少し離れた所で十人位の背の低い人達がイヤナを見詰めていた。

セレバーナより小さい人しか居ないので子供かと思ったが、男性は全員が髭面だった。

全員が明るい茶髪なので、パッと見は性別しか分からない。

状況が全く読めないイヤナは、目を白黒させながら周囲を見渡した。

仲間達と過ごした石造りのリビングと同じ風景だったので、最果ての遺跡に帰って来たのかと思った。

だが、あそこにはお師匠様以外は誰も入れないはず。

ドアが無いリビングの入り口の向こうで背の低い人達が驚いた表情でタムロしているし、奥のキッチンに食器棚が無いので、ここはあそこではない。

他にも遺跡のリビングとは違う部分が有る。

リビングの中心に置かれている円卓がひっくり返されていて、その足に勇者が持つ様な派手で強そうな剣が刺さっている。


「みんな落ち着いて。彼女が驚いているわ」


高貴そうな刺繍が施されたローブを着た女性がそう言うと、入り口を塞いでいた男性達が道を開けた。

慎重な足取りでリビングの中に入って来た彼女も子供の様な背丈だ。


「私達の言葉がお分かりになられるでしょうか?」


「う、うん」


取り敢えず頷いたイヤナは、高貴そうな女性の足音に違和感を抱いて足元に視線を落とす。

良く見てみると、リビングは石造りではなかった。

灰色のキノコの傘が落ち葉の様に重なっている。

ブーツの踵で蹴ってみると、石の様に固い。

窓を塞いでいる板もキノコ柄だ。

どうして窓が閉まっているのに明るいのかと思って光源を探してみたら、リビングの四隅に巨大なキノコが生えていて、それが光っていた。

キノコで住処を作っていると言う事は、ここを統治していた女神はファンガーマテリアルか。


「良かった。我々はユゴント族。古きドワーフの一族です」


「どわぁふ?」


イヤナは聞き慣れない言葉を繰り返す。

穂波恵吾の記憶の中には有るけど……、と思ったところで再び違和感。

こんな時、いつもなら頼みもしないのに天才が一歩前に出て交渉役を買って出てくれる。

しかし、今回はそれが無い。

改めて周囲を見渡してみると、さっきまで一緒に居たセレバーナが居ない。

そして気付く。

自分は無理矢理転移させられ、ここに来たのだ。

先程の立ちくらみは強引な転移魔法による副作用だったか。


「ご存じないでしょうね。失礼を承知でお越し頂いたのは、貴女にお願いが有るからです。聞き届けては頂けないでしょうか」


「お願い?えっと、まぁ、私に出来る事なら――」


頷いたイヤナは、更なる違和感に気が付いた。

三つ編みが軽い。

自分の首筋に指を這わせたイヤナは、あっと声を上げた。


「マギが居ない!大変!お願いはマギを見付けてから聞くわ!」


「まぎ?」


今度はドワーフの女性が言葉を繰り返した。


「私の使い魔です。私からの魔力の供給が止まると死んじゃうの。早く見付けないと!」


「恐らく、貴女が元々居た場所に置き去りにしてしまったんでしょう。大丈夫。私達のお願いを叶えて頂けたら、すぐに元の場所に戻れます」


「そうなの?お願いって、何ですか?」


「その剣を引き抜いてください」


ひっくり返った円卓を指差す女性。


「え?これ?何か凄そうな剣ですけど、何なんですか?」


「凄そう、ではなく、凄いんです。女神の時代に私達の祖先が作った物ですから。とても神聖な物ですので、決められた時以外では触れないんです」


「え?じゃ、これが女神の剣?うわ、いきなり見付けちゃった。やったね!」


無邪気にはしゃぐイヤナ。


「もしや、貴女の目的はこの剣でいらっしゃるのですか?」


「そうなの。えっと、何であの剣が必要なのかを説明するとですね、えっと」


こう言う時、頭が悪い自分は考えるのが遅い。

セレバーナが居れば簡単に相手を納得させる事が出来るのに。

どう説明すれば良いのかを考えていると、一人の男性がリビングの様な部屋に突入して来た。


「お待ちください!それを抜かないでください!」


髭面だが、目元は凛々しい男性が跪く。

多分若い。

髭を剃ったらそこそこのイケメンだろう。


「な、何?何なの?」


状況が理解出来ず、戸惑うイヤナ。

制止しようとするローブの女性を振り切り、イヤナににじり寄る男性。


「剣を抜く前に、俺の話を聞いてください!」


「話を聞くのは良いんだけど、今ちょっと急いでるの。急いで元の場所に戻らないと、私の大切な使い魔が死んじゃうの」


「使い魔?良く分かりませんが、それが死んだら取り返しが付かないんですよね?」


「はい。マギが死んじゃったら、私の修行が全部無駄になっちゃうんです」


立ち上がった若い男性はローブの女性に詰め寄る。


「巫女様。先ずは全てを打ち明けましょう。彼女が納得したら俺も引き下がります。その時間を作る為に彼女の使い魔とやらを探し、ここに連れて来てください」


必死に訴える男性を冷たい目で見るローブの女性。

しかしすぐに諦めの頷きを返す。


「分かりました。ここで遺恨を残しても仕方が有りません。では、貴方が指揮を取って彼女の使い魔を探しなさい」


「は、はい!」


「しかし、分かっているとは思いますが、長くは待てません。彼女も急いでいますし。上には複数の冒険者の気配が有る様ですので、気を付けて歌わせなさい」


「はい!」


男性が走り去るのを見送ってからイヤナに深々と頭を下げるローブの女性。


「申し訳有りません。無理矢理呼び付けて置いて、お待たせしてしまう事になってしまって」


「それは良いんですけど。もしも時間が掛かる様でしたら、一旦帰らせてください。仲間も心配しているでしょうし」


「分かりました。待つのは一時間だけにしましょう。ですが、貴女の使い魔は彼がきっと連れて来てくれます。彼は必死ですから」


「一時間……」


睡眠時や入浴時は身体から離すので、それくらいならマギが死ぬ事はないか。

魔力のリンクが切れている訳でもないし。

再会したらすぐに魔力をあげられる様に良い状態を維持しておこう。


「分かりました。待ちます」


「ありがとうございます。――では、その間に食事でもいかがですか?我々の郷土料理をご馳走しましょう」

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