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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
255/333

18

「彼等が修行中の若い芽か。彼等が消えない様に頑張らないとな。――で、イヤナ。その歌はどんな風に聞こえるんだ?」


「人の声、に聞こえるけど、ちょっと違うんだよね。えっと、そうだなぁ」


考え込んだ後、やっと言うイヤナ。


「穂波恵吾の記憶の中に有る、あの声みたい。ええと、アレ。ラジオ……だっけ?あんな感じ」


「ラジオか。放送局が発信した電波をアンテナで受信し、スピーカーから音を出す仕組み。大勢の人間が同時に同じ音を聞く事が出来る機械」


セレバーナは腕を組み、暗唱する様に呟く。


「そう、それ。不自然にくぐもった感じ」


セレバーナは耳を澄ませる。

遠くでさっきの少年少女が喋っている声が聞こえる。

気の強いお嬢様が無茶な指示を出した様で、少年達がなだめている。


「ふむ。何も聞こえないな。私には感じない何かが有るのか」


帰ると聞いてたので、イヤナはシートを畳んでリュックに仕舞う。

早く高級ホテルに帰って温かいお風呂に入りたいが、このまま引き上げたら謎が残り過ぎていて気になって仕方がない。


「ちょっと調べてみようか。マギ、私だけに聞こえる歌の正体を教えて」


赤い髪から妖精が顔を出した途端、持っていたリュックを取り落とすイヤナ。


「うわっ、やっぱヤメ!マギ、今の質問取り消しっ!ヤメヤメ!」


イヤナが声を荒げるのは珍しいので、セレバーナは目を丸くした。

マギも驚いた様子でイヤナから離れ、宙に舞う。

しかし分厚い手袋を着ていて飛び難いのか、ゆっくりと高度が落ちて行っている。


「どうした?」


「危なかった~。凄い勢いでマギに魔力を吸われたよ。気軽に訊ける問題じゃないみたい」


寒さで赤かった顔色を一瞬で真っ青にしたイヤナは、コートの上から胸を抑えて呼吸を整えている。

空気が冷たいので深呼吸出来ない。


「つまり、それ相応の秘密が確実に有る、と言う事か。期待が膨らむな」


薄く笑むセレバーナに頷くイヤナ。


「そうかも。音がする方に行ってみる?」


「さっきの彼等に帰ると言ったから、面倒事を避ける為にも、あまり長居は出来ない。十分程度探って、何も無かったらまた今度にしよう」


燃え尽き掛けている松明も、それくらいの時間なら持つだろう。


「そっか。帰るって言っておいて帰らなかったら、ウソを言った事になるもんね。分かった。じゃ、進むね」


呼吸が落ち着いてから、耳を澄ましたイヤナを先頭にして慎重に歩き始める。


「うーん。音が変わらないから、近付いている感じがしないなぁ」


「どう言う事だ?」


「例えば、水を探している時は、川に近付いたら水音が大きくなるでしょ?でもこの歌は音量がずっと一定なの。おかしくない?」


「ふむ。とすると、聴覚ではなく、意識に直接届いているのかもな。つまり魔法だ。しかし、魔力の気配は無い」


「魔力の気配は無いよねぇ。うーん。何だろう」


「女神魔法とは違う魔法かもな。ヴァスッタの精霊魔法の様に。あそこもここもパワースポットだから、可能性は有る。イヤナはどう思う?」


「精霊魔法、かぁ。あれは踊りが魔法の元だったよね。じゃ、こっちは歌が魔法の元って事になるのかな。ん?アレって、さっき言ってた紋章――」


イヤナが何かを指差したその瞬間、赤髪少女の姿が掻き消えた。

彼女が吐いた白い息が数秒だけその場に残っていた。


「む?イヤナ?」


金の瞳を丸くしながら周囲を見渡すセレバーナ。

さっきまで前に居た仲間の姿がどこにも無い。


「今のは、転移魔法?何の気配も無かったぞ?」


目を瞑り、イヤナにテレパシーを送って気配を探る。

だが、反応無し。

世界のどこにも居ない。

そんなはずは無い。

転移魔法で世界の外に瞬間移動したとしても、移動した直後なら魔力の筋が残っているはず。

それなのに、何も感じない。


「有り得ない。何が起こっているんだ?」


考えながら、再び周囲に視線を巡らせるセレバーナ。

イヤナの使い魔が宙に浮いている。


「マギは残されたのか。イヤナはどこに行った?」


小さな妖精はセレバーナの問いに無反応。

やはり持ち主じゃないと言う事を聞かないか。


「イヤナー!返事をしろー!イヤナーッ!」


セレバーナの声が洞窟内で反響するが、人の気配は無い。


「これは良くない状況かも知れん」


イヤナの使い魔は、常に魔力を供給しないといけないタイプだ。

燃費が悪い代わりに、持ち主が持っていない知識を得る事が出来る。

もしもイヤナが遠くに転移していた場合、この使い魔は魔力切れで死んでしまうかも知れない。


「困ったな。テレパシーは……やはり届かない。意識の融合を気にせず、全力でやってみるか?いや、それをすると反応が有った場合に困るか」


久しぶりに焦りを感じるセレバーナ。


「落ち着け、私。冷静に考えろ」


確か、使い魔は持ち主とリンクが繋がっている。

そのリンクを使って魔力の供給をしている。


「危険だが、緊急事態だ。イヤナの魔力と私の魔力を反発させてみるか」


三十センチほどの長さののし棒の様な形をした魔法使いの杖を懐から取り出したセレバーナは、弱い電磁波を発生させてトンボ羽根の妖精の全身を包み込んだ。

シャボン玉の様な電気の膜の一部が花火みたいな火花を散らす。


「良かった、リンクは繋がっている。方向的には、下か。と言う事は、この洞窟には隠された地下が有る。そこにイヤナは居る」


安心したセレバーナは、電磁波を中和してからイヤナの使い魔を指差した。


「これからお前のご主人様を探す。付いて来い。寒さに弱いのなら私の髪の中に入っても良いぞ」


しばらく宙を旋回した使い魔は、黒髪少女のマフラーを掻き分けて襟足に潜り込んで来た。


「フフ、くすぐったいな。――しかし、イヤナは明らかに転移魔法で飛ばされている。それなのに魔力の跡が無いのはどう言う訳だ?」


セレバーナは下りの道を探しながら考える。

考えられる方法はただひとつ。

やはり、女神魔法以外の魔法を使われたのだろう。

南のヴァスッタが使う精霊魔法は、セレバーナには感知出来ない。

それを行使する修行をしていないからだ。


「もしそうなら、この地にも失われるはずだった魔法が残っている事になる。本来なら朗報なのだが……」


穂波恵吾の記憶の中には女神の数と同じ種類の魔法が存在する。

それを知っていても、感知方法が分からなければ意味は無い。

だが、何が有ってもイヤナを見付け出さなくては。

襟足に潜んでいる使い魔の命が尽きる前に。

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