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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
254/333

17

「あのさ、セレバーナ。ここに女神の剣が有るのなら、誰も入れない様な場所に有るんじゃない?例えば、薬草が生えない様な地下とか」


「イヤナもそう思うか。事前に調べた情報では、こんなにも整備されているとはどこにも書かれていなかった。大分予想と違っている」


「この様子だと、大方の場所は調べ尽くされているんじゃないかなぁ。もしも何か有ったら持って行かれてると思う。剣と言えば結構なお宝だから」


「だろうな。怪しそうな通路や穴は無かった。空気の流れも新鮮な物ばかり。危険が無い場所なので情報の更新に積極的じゃなかったんだろう」


「この寒さとこの広さじゃ、闇雲に探検を続けるのは厳しいよ。何日も篭る準備をして来たけど、一旦帰った方が良さそう」


「転移魔法ですぐ来れるしな。だが、明日明後日に来ても無意味だろう。明かりや遠見の魔法を練習し、春にまた来る方が良いかも知れないな」


「そうすると数ヵ月後かぁ。その間、魔法の練習以外に出来る事は有るかな?」


「ううむ。――ん?」


自分達以外の話声が聞こえて来た。

薬師ではない。

洞窟の壁に響いて分かり難いが、複数人の男女。


「何者だ?」


松明を横穴の外に出したセレバーナは、入り口に置いたままのリュックの肩紐を握った。

洞窟付近に人里は無いが、徒歩数時間程度離れた場所には普通の村が有るらしい。

そこから来た人なら危険は少ない。

しかし、浮浪者だったら金品や食料を奪われる可能性が有る。

それ以外の危険性も。


「もしも怪しげな者達だったら転移魔法で王都に逃げよう。慌てない様に、洞窟の外に出る短い移動でも良い。心の準備をしておこう」


「うん」


イヤナも自分のリュックの肩紐を握り、もう片方の手でシートを掴む。

そこそこ良い値段の物なので、置き忘れたらかなりの痛手になる。


「こちらに来ているな……」


近付いて来る複数の足音に緊張する二人の少女。

あえて松明を消さないのは、こちらの存在に気付いた向こうの人達の反応を探る為だ。

もしも獲物を狙う猫の様に気配を潜めたら、こちらに危害を加える可能性が有る。

だが、足音が忍び足になる事は無かった。


「こんにちは。大丈夫ですか?」


横穴の前で足を止めた謎の人達は、複数の松明を穴に向けて掲げた。

声を掛けて来たのは黒髪の少年。

銀縁メガネで、ガリ勉くん、って雰囲気。


「大丈夫です。ただの休憩です」


セレバーナがそう応えると、背の高い金髪の少女が溜息を吐いた。


「ホラやっぱり。もうすぐ日が暮れるわ。サッサと探索の続きをしましょうよ」


「ちょっと待って。その金の瞳、もしかしてセレバーナ・ブルーライトさんですか?」


改めて松明を近付けて来たのは銀髪の少年。

もう一人肌が浅黒い少年が居るが、周囲を警戒していて会話に入って来ない。


「そうですが、貴方達は?」


「失礼しました。俺達は魔法ギルドで修行している者です。この洞窟の謎を解きに来たんです」


そう言った銀髪の少年が愛想良く名乗る。


「俺はジャック・ドゴノラ。よろしく。有名な魔王の弟子達がこの洞窟の探査に来ていると言う話を聞いて、慌てて来た次第なんですよ」


「ほう。この洞窟には謎が有るんですか?」


壁の穴から出たセレバーナは、マフラーを下して顔を出す。

そしてリュックを穴に押し込み、イヤナにも視線でそうしろと合図する。


「私はイヤナ。よろしくね」


察したイヤナは、横穴から出て笑顔で愛想を振る。


「私はエリザエルザ・モモルア。貴女達があの有名なお方なら、情報交換しませんか?何か手掛かりをお持ちなら、ですが」


気が強そうな印象の金髪少女が取引を持ち掛けて来る。

しかしセレバーナは無表情で肩を竦めた。


「残念ながら、交換出来る様な情報は何ひとつ有りませんね。休憩がてら、これからどうしようかと相談していたところです」


「そうですか。だからこんな所で……。残念です。ご高名な貴女達なら紋章くらいすぐにでも見付けられると思ったんですけど」


背が高い金髪の少女は、セレバーナを見下す様な目付きになった。

プライドが高く、他人を小馬鹿にするタイプか

自分より能力が上の者に嫉妬したりするかも知れない。

となると、彼女がこのパーティのリーダーだろう。


「紋章、ですか。薬草の洞窟に何の紋章が有るんですか?」


「知らずに調査ですか?ブルーライトさん程の御方が?――なら、こんな所に何の用がお有りでしたの?」


「パワースポットの調査です。しかし、ガイドブックに書かれていない謎が有ったとは。やはりギルドに所属していないと、そう言った情報に疎くなりますね」


「最果ての地では都会の情報は届き難いでしょうしね」


「そうなんですよ。なので、もし宜しければ、この洞窟にどんな謎が有るのかを教えて頂けませんか?」


セレバーナは、申し訳なさそうな、そしてちょっとだけ恥ずかしそうな表情を作って訊く。

こう言うタイプは下手に出てやれば上機嫌になる。

思った通り、銀縁メガネの少年に説明させるエリザエルザ。


「俺はイイヤタ・ワイシ。よろしく。こっちの無愛想なのはブッチ・アラティ」


無言で会釈する浅黒な少年。

そしてイイヤタが語る。

この洞窟は薬草取りのメッカだ。

広いだけで特徴も危険も無い洞窟だが、ひとつの怪談が有る。

それは、時折歌声が聞こえると言う物だ。

十数年前から聞こえて来るそれの正体は誰も知らない。

実害が無いので放置していたが、単純に薄気味悪いので薬草取りクエストを受ける若者の数が減って来た。

なので怪談調査のクエストが新たに発生した。


「危険の無い調査クエストの報酬は安いんですけど、ここは別。十何年も手掛かり無しだから、ちょっとした情報でも別格の報酬が貰えるんですよ」


「ほう。危険も無しに多額の報酬が貰えるんですか。なら人気クエストでしょうね」


「そう言う事。そんなクエストの地に君達が向かったと聞いて、エリザエルザが居ても立っても居られなくなってね」


「でも、ブルーライトさんも手掛かり無しなら慌てる必要はありませんでしたわ」


長い金髪を揺らして背の低い黒髪少女を見下したエリザエルザは、機嫌良く白い鼻息を吹く。


「こちらから提供出来る情報は有りませんのでこの質問は無視されても構いませんが、紋章とは何ですか?」


セレバーナが訊くと、銀縁メガネの少年が応えた。

ガリ勉くんは良い家の出なのか、こちらを警戒する事無くスラスラと喋る。


「このクエストに関する資料を調べると、紋章を発見したと言う報告が何件か有るんですよ。ただ、場所と模様の記憶が消えてしまうらしく、詳しい記録が無い」


「記憶が消えてしまうんですか?それなのになぜ紋章が有ったと言う報告が残っているんでしょう」


「確かに不自然ですが、なぜそうなのかも記録に残っていません」


「魔法ギルドが故意に情報を隠している?それとも、何らかの魔法で紋章が隠されている?」


「俺は魔法で隠されていると思いますね。つまり、この洞窟には謎の存在が確実に居る」


銀縁メガネの少年の言葉を鼻で笑う銀髪の少年。


「もしもそんな存在が居るなら、十何年も謎のままなんて有り得ないと思うけどね。ここは立ち入り自由だから」


「でも私は確かに歌を聞いたんです。絶対に何か有ります!」


拳を握って力説するエリザエルザに笑顔を向けるイヤナ。


「やっぱり歌が聞こえてますよね?セレバーナは何も聞こえないの?」


「聞こえないな。風の音じゃないのか?」


「どこから聞こえて来ているのかが分からないから、そうじゃないとは言えないけど。エリザエルザさんはどんな感じに聞こえていますか?」


無遠慮に訊かれ、一歩引くエリザエルザ。

プライドの高い彼女は、イヤナみたいに人付き合いに遠慮の無い人種が苦手な様だ。

セレバーナも最初の内は微妙に苦手だったから気持ちは分かる。


「そ、そうですわね。確かに、風の音と言われればそれまでですけど。でも貴女にも聞こえているのでしたら、私の聞き間違いではないでしょう」


「そうですね。ふむ……。まぁ、十何年も解決していないクエストなら、ちょっとやそっとの調査では解決しないでしょう」


セレバーナは分厚いコートの上で腕を組む。

複数人に聞こえているのなら、それはきっと歌なのだろう。


「とても気になりますが、今日はもう日が暮れる。我々は一旦引き上げます。貴女達はどうされますか?」


訊かれたエリザエルザは、視線を逸らして考えてから応える。


「私達ももうすぐ引き上げます。貴女方は、明日もまたここに?」


「来られれば、と思っていたんですが、現地調査よりも先に紋章について調べないといけなくなりましたね。急ぐ必要も無いですし、温かくなったら、ですね」


「そうですか。なら、我々もまた春に再チャレンジしてみましょう。――では、ごきげんよう」


軽く頭を下げたエリザエルザは、三人の少年を引き連れて去って行った。

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