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二十分ほど待つと、手と足だけに赤い鎧を着けたプロンヤが現れた。
見苦しくない様に薄いポンチョの様な物を羽織っている。
少々寒そうな格好だが、身体を鍛えているから平気なのだろう。
格闘家のサコも薄着だったし。
「セレバーナさん。イヤナさん。お久しぶりです。どうされました?何か良く無い事でもございましたか?」
最果てに引き籠っているはずの顔ぶれの登場に慌てている女騎士。
その様子を見た門番は、無礼な小娘が怒られると思っていた当てが外れて戸惑っている。
「お久しぶりです。まずはお礼を。私が入院した際、便宜を計らって頂き、本当にありがとうございました。助かりました」
門番が見ている前で、ツインテールの頭を深く下げるセレバーナ。
ついでにイヤナも下げた。
「いいえ。セレバーナさんの助けになったのなら、それは私の喜びにもなります。どうぞお気になさらずに」
姿勢を正したセレバーナは、肩に掛かったツインテールを手で払って雰囲気をリセットした。
「では本題に。ペルルドールに用事が有るんです。会えますでしょうか」
「そうですね。ええと――」
プロンヤは懐中時計を取り出し、時間を確認する。
「一時間後にお勉強の時間が終わります。その後の休憩時間で良ければ。二十分、と言ったところでしょうか」
「それで結構です。テレパシーが通じればすぐ終わると思ってここから試したのですが、やはり魔法防壁に邪魔されて届きませんでした」
「王城の警備は万全ですから当然です。ではこちらへ」
女騎士に先導され、門の中に入る少女二人。
王城の敷地は広く、姫城まで十分以上も歩かされた。
その間を埋める様にプロンヤが雑談を始める。
「セレバーナさん。お身体の具合はいかがですか?姫がとても心配しておられます」
「健康です。時折発作の気配がするので無茶は出来ませんが。逆に言えば無茶をしなければ問題は無い、と言った感じですね」
「なるほど」
「この後、病院に行って検査の予約をする予定です。もっとも、ペルルドールとの話が順調に行けば、ですが」
「難しい話ですか?」
「いえ。一国の王女に会える保証が無いので、病院に行く時間が無くなる事態もあり得るかと。こうして門内に入れただけでも奇跡ですし」
「確かに。ですが、貴女達がお見えになられたのなら、姫がお会いになられない訳がございません。イヤナさんもお変わり無い様で」
「はい。プロンヤさんも。――その格好は、お寛ぎの最中でしたか?もうしそうなら、ごめんなさい」
「姫がお勉強をなさっている時は退屈ですから。お気になさらず」
「なら良かったです。ペルルドールは元気ですか?」
「お元気です。ただ、貴女達との修行の日々を思い出されているのか、時折ボンヤリとなさっておいでです」
口の端を上げるセレバーナ。
「フフ。一国の王女が貧乏暮しを懐かしむなんて、随分おかしな話だ」
イヤナも笑みながら冬の空を見上げる。
「でも、また四人で暮らせたら楽しいだろうね。無理だけど」
「無理だが、な」
王女と同じ様な表情をする二人の少女。
それを見てプロンヤは思った。
この子達は、まだ姫と心が繋がっている。
姫と同じく、過去を懐かしみ、仲間との別れを悲しんでいる。
「では、こちらでお待ちください。必ず、必ず姫をお連れ致します」
姫城に入った二人の少女は、調度品の豪華さが眩しい応接間に通された。
妙に意気込んでいるプロンヤに不思議そうな視線を向けたセレバーナは、すぐに表情を和らげて頭を下げた。
二度と会えない覚悟をして別れた事を知っているのならば、この再会はペルルドールが喜ぶと思っているのだろう。
「宜しくお願いします」




