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王都の空は黒い雲に覆われていた。
降雪の予感を感じさせる冷たい風が王城の門を護っている二人の兵士を撫でて行く。
身体が芯から冷えているので、早く交代の時間にならないかなと願っている。
しかし訓練された彼等は微動だにしない。
可愛らしい二人の少女が五十メートル先で何やら相談しているからだ。
田舎から出て来た観光客が王城を珍しがって見学しているだけだろうが、だからこそ兵士として姿勢を正している。
王城の門は王の顔でもあるので、そこを護る者がだらしないと王の恥になってしまう。
「あの。宜しいでしょうか」
話が纏まったのか、妙に量が多い黒髪をツインテールにしている少女が前に出て来た。
「私はセレバーナ・ブルーライト。第二王女護衛団団長のプロンヤ・ウヤラさんに用事が有るので、取り次いで貰えますか?」
自分のヘソの位置に顔が有る小さい少女をいかつい顔で睨み付ける門番の方割れ。
通常なら猫の子を追い払うが如く適当にあしらうのだが、しかしブルーライトと言う名前には聞き覚えが有る。
詳しくは知らないが、有名人なら無下には扱えない。
「約束はお有りですか?」
「いいえ」
無表情で即答する黒髪少女。
妙に態度がでかいが、ここで怯んでは門番は務まらない。
「それでは取り次ぎは出来ませんな。正式な手順を踏み、改めてお越しください」
「そう言われるだろうと思って、これを着て来ました。――この紋所が目に入らぬか」
奇妙な言い回しをした少女は、着ている防寒用コートの襟元を指し示してドヤ顔をした。
見覚えの有る、と言うか、この国の兵士なら命を掛けて守らなければならない薔薇の紋章が縫い付けて有る。
「それはペルルドール様の紋章ではありませんか。なぜそれを君が着ているのですか?」
「そちらのイヤナが着ているコートにも同じ紋章が有ります。これは第二王女の私物なのです」
赤髪を三つ編みにしている少女が笑顔で自分の襟を指差す。
そっちは油紙を編んだレインコートだが、確かに同じ紋章が縫い付けてある。
「アポイントメントが無くても取り次いで貰う為にこれを着て来ました。さぁ、プロンヤさんに私の名前を伝えてください」
良く見てみると、少女達の体格にコートが合っていない。
黒髪少女の方は裾が地面に付きそうになっているし、赤髪少女の方は袖が少々短い。
本当に王女の私物らしいが、常識で考えれば偽物であろう。
紋章の刺繍など、門番程度では鑑定出来ないレベルの物は簡単に偽造出来る。
だが、王女本人ではなく護衛団団長をフルネームで呼んでいるので、本物である可能性も十分に有る。
団長は王女に害を成す存在には無慈悲に鉄槌を下されるので、呼べと言うのなら呼んでやろう。
子供のいたずらなら泣きを見るのはこの子達だ。
「少々お待ち下さい。セレバーナ・ブルーライトさん?」
「はい」
少女の名前を確かめた後、渋々ながら門の中に入って行く門番。
入れ替わりに別の男が門番を務める。
「ペルルドールが紋章入りの服を残してくれていて良かったね」
笑顔で言う赤髪少女。
寒さのせいで頬と鼻の頭も赤くなっている。
「うむ。王女の身分を示さなければならなくなった時の為に、爺やさんが用意していたんだろうな。服の海の中から見付けるのは苦労したが、その甲斐は有った」
心臓が悪くて血行が悪いセレバーナは、真っ白な顔色でコートの襟を締めた。




