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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第八章
239/333

2

話が長くなりそうなので、シャーフーチは円卓の上座に座った。

修行修了と共に遺跡から出て行った金髪美少女と茶髪少女の椅子はそのままになっている。

絶対に帰って来れないと確定している訳ではないから。


「いざとなったら転移魔法で病院に行く事になると思うのですが、ここから出ると私は女神候補から外れるのでしょうか」


赤髪少女に金色の瞳を向けながら師に訊くセレバーナ。


「分かりません。この事態の元凶であるソレイユドールの意識が戻らない事には」


「なら、この場に遺された穂波恵吾の知識を得たいと思います。多少なりとも女神の意思に触れる事が出来れば解決策を思い付くかも知れません」


「もう最後の手段ですか?早くないでしょうかねぇ。世界の命運が掛かっているので、絶対に失敗出来ないんですよ?」


セレバーナの言葉に首を横に振るシャーフーチ。

円卓の中心にはトランプ大のカードが誰にも触れられないまま放置されている。

それには穂波恵吾と言う若者の姿が描かれており、彼が生まれ育った異世界の知識が詰まっているらしい。

機械弄りが得意なセレバーナは、異世界の機械の知識にかなりの興味を示している。


「でも、セレバーナの命が掛かっているんですよ?そっちも大切です」


悲しそうな表情のイヤナに言われ、ううむと唸りながら円卓の木目に視線を落とすシャーフーチ。

確かにその通りだ。

この子達は、ソレイユドールが転生を経てなお女神になれなかった場合の控えだ。

本人達にもそうである事を伝え、その覚悟をして貰っている。

この遺跡に籠っているのも、ソレイユドールの自我の状態によってはすぐに女神になる準備を始める為だ。

なので、その準備を始める前に命を落とされたら全てが無駄になる。

女神候補が二人も居るのだから一人死んでも大丈夫、なんて事は絶対にあり得ない。


「穂波恵吾の知識を得るなら、二人同時に得なければなりません。一回使ったらカードが失われる可能性が有りますので。勿論、絶対ではありませんが」


その根拠は、ソレイユドールが女神の鎧のレプリカを使ったら、一度でその全てが失われたから。

穂波恵吾のカードは女神の鎧のレプリカと同じく女神の遺物なので、同じ結果になる可能性はかなり高い。

ただ、鎧の力が無くなった理由はかなり特殊である。

女神の能力を使ってこの場に異次元を作り、この世界の魔物の殆どを閉じ込めたせいだ。

その力の使い方はかなり乱暴で強大だったので、そんな事をしなければカードは失われない可能性も有る。

どう考えるにせよ結果は予想しか出来ず、不確定な事には変わりない。


「そう仰ると思い、昨日、イヤナと話し合いました。二人共覚悟は出来ています。二人同時に使いましょう」


セレバーナの言葉に頷くイヤナ。

しかしシャーフーチは渋い顔をする。


「しかし、それで女神候補が二人になるのも問題なんですよねぇ」


「その問題とは?」


「貴女達が見た過去の映像では、複数の女神が登場したと思います」


「ええ。七人登場しましたね」


「その女神達は何をしていましたか?」


「女神の鎧を取り合っていましたね。それぞれが一部分ずつ身に付けていて、勝ったら奪っていました。……もしや、その争いが再び起こる事を懸念されていますか?」


気付き、眉を顰めるセレバーナ。


「可能性は有ると思うんですよね。そもそも、女神達はどの様な理由で争っていたかを覚えていますか?」


「古い世界神の寿命が迫っているので、新しい世界神を育成する為。と記憶していますが」


赤髪少女に視線を送るセレバーナ。

イヤナもそう記憶している。

この遺跡に居た女神の名前はストーンマテリアル。

過去の映像の中でストーンマテリアルと戦っていた女神の名前はサンドマテリアル。

女神は世界を(かたど)る素材を名前に掲げており、ストーンマテリアルが統治していた国は石を使った技術が発達していた。

自分が象徴する素材の優位性を証明する為に、下界の人間に石の文化を与えていた様だ。

この遺跡が石造りなのは、ストーンマテリアルが暮らしていたからなのだろう。

同じ様に、他の女神達もそれぞれの素材を発展させていたと思われる。

サンドマテリアルが暮らしていた国は砂漠だったので、そちらの国は砂を利用した文明を発達させていたのだろう。

最終的にストーンマテリアルが全ての女神に勝利し、次世代の世界神となった。

新しく産み出される世界は石を基礎とした世界になる事だろう。

世界神とは、数多くの世界を作り出す神。

代替わりさせる為に七人の女神を産み出したとストーンマテリアルが言っていたので、世界だけでなく、神をも自分の意思で産み出せる神の様だ。

つまり、この世界の人間が信仰している女神の上位に位置する神になる。


「なら、二人が新しい女神になった場合、二人の争いになるのではないでしょうか」


シャーフーチの言葉に視線を返す少女達。

そもそも、なぜ二人の少女が女神になろうとしているのか。

それは、ストーンマテリアルがこの世界から出て行ったからだ。

元々、この世界は七人の女神の誰かを世界神に育て上げる為だけに産み出された。

その目的が達成されたら用済みになるので、当然の様に破棄される予定だったらしい。

それを阻止したのは、異世界人である穂波恵吾だった。

女神を育てる為に即席で作られたこの世界だが、そんな世界にも生きている大勢の人間が居る。

その全てを一瞬で消し去るのはあんまりだ、とストーンマテリアルに訴えたのだ。

女神の気紛れによってその願いは聞き遂げられたが、所詮は女神の育成の場。

時間の流れがでたらめだし、世界の果てが有る。

何もせずに放っておけば、不安定な世界は自然に消えてしまうだろう。

なので、新しい女神を立てて世界を維持させなければならない。

そこで当時の王女であるソレイユドールは、自分が女神になろうとした。

その時に使ったのが、ストーンマテリアルが遺して行った女神の鎧のレプリカだった。

この場に有る穂波恵吾のカードは、万が一の保険として異世界人が残した物だ。

色々有ってソレイユドールの状態が不安定な今は、そのカードが女神になる為の最後の希望となっている。


「争いになる可能性も、すでに話し合っています」


黒髪少女の態度を見たシャーフーチは、この会話の流れに予定調和を感じた。

賢い子なので、有り余るヒマを使って色々と考えているのだろう。


「女神が二人居てはならないのなら、身を引くのは私です」


淀み無くそう言ったセレバーナは、溜息と共に肩を竦める。


「心臓の弱い女神では将来に不安が有りますからね。イヤナなら良い豊穣神になれます」


「全てを予想し、その上で覚悟している、と言う事ですか」


揃って頷くセレバーナとイヤナ。


「負けた女神は、自分を消すのか?と言っていました。しかしストーンマテリアルは負けた女神を男性化し、下僕としていました」


「もしも私しか女神になれないのなら、セレバーナを、下僕って言い方はアレですが、そんな感じにしたいと思います。男の子にはしませんけど」


少女二人の覚悟を見せられたシャーフーチは、どうしたら良い物かと考え、すぐに思考を諦めた。

大人側としても一人で判断する事は出来ない。


「分かりました。では、その方向でテイタートットと相談して来ます。彼も解決策を色々と探っていますからね」


「さすがに今すぐという訳には参りませんか」


「さすがに、ね。セレバーナが死にそうで今すぐ病院に行かなければならないのなら話は変わりますが。そうではないんでしょう?」


「ええ。漠然と不安に思っているだけです。緊急性はゼロです。不安の原因は、退屈で色々と考えてしまうせいでしょうね」


「自己分析出来ているのなら、無暗に急ぐ必要は有りませんよね。では、一週間後に」


立ち上がったシャーフーチは、転移魔法を使って姿を消した。

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